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がんで亡くなる米国人は多く、死亡原因の第2位である。ただし、死亡率の人種間格差は極めて大きい。発症率自体に黒人と白人で大きな違いはないものの、黒人がん患者の死亡率は白人がん患者の死亡率より高い状態が続いている。にもかかわらず、がん治療に関する臨床研究や患者登録において、黒人患者のリプレゼンテーションが適切な水準にあるとはいえない。この人種間格差を是正するには、治験を行う医療機関と患者登録の情報を集約し、黒人患者を多く抱える施設を支援したり、黒人患者の治験参加をうながしたりすることが欠かせない。本稿では、格差の是正に向けて実践すべき3つの行動を論じる。


 がんは米国で第2位の死亡原因である。ただし、人種や民族による格差が極めて大きい。がんの発症率自体に白人と黒人の間で大きな差はないが、黒人がん患者の死亡率(10万人当たり173人)は依然として、白人がん患者(10万人当たり153人)よりも高い状態が続いている。

 この格差はここ20年ほどでかなり縮小したが、いまだに大きなギャップが残っているのが現状だ。前立腺がん、大腸がん、乳がん、多発性骨髄腫など、いくつかの種類のがんでは人種間の格差が解消されていない。

 ところが、がんの治療法の臨床研究や患者登録では人種的マイノリティ、とりわけ黒人患者が過小評価されている。がんを発症した際の死亡率が、白人より高いにもかかわらず、である。

 コロナ禍では、新型コロナウイルス感染症による死亡率に人種間格差があり、新型コロナワクチンの治験で有色人種の参加者が少ないことから、格差の問題を解消するための協力体制が生まれた。がんの死亡率の人種間格差を縮小するには、これと同様の強い危機感と協力体制が不可欠となる。

 本稿では、がんの治療法に関する臨床研究に、もっと多くの有色人種患者に参加してもらうために、いますぐ実践可能な3つの行動から成る戦略を紹介したい。ここで提案する方法論は、がん治療に関わるリーダー数十人に対するインタビュー調査と、ハーバード・ビジネス・スクールのクラフト・プレシジョン・メディシン・アクセラレーターが最近開催したシンポジウムに参加した産業界のリーダーの知見に基づいている。

 インタビューの対象者とシンポジウムの登壇者には、米国国立衛生研究所(NIH)、米国国立がん研究所(NCI)、米国がん学会(AACR)、医療機関やがんセンター、製薬会社やバイオテクノロジー企業、大学機関、そして多発性骨髄腫研究財団(MMRF)や米国公共広告協会などの代表が含まれている。

 以下に紹介する方法論は、黒人がん患者と白人がん患者の死亡率の格差を減らすためだけに有効というわけではない。同じ手法により、他の属性間の格差や他の病気における格差も埋めることができる。