なぜ「腹落ち」の感覚が必要なのか

 これを実現するうえで大事なのが、センスメイキング理論で語られる「腹落ち」の感覚だと、入山教授は強調します。

 知の探索は、慣れない分野の知と知を組み合わせるため失敗が多く、社内外の批判によって担当者も諦めてしまいがちです。

 それゆえ、リーダーがパーパス(存在意義)や長期ビジョンを示して、その活動を意味付けし、担当者を鼓舞し続けることが欠かせません。そうすることで、たとえ現状においてうまくいかなくても、その活動が息長く続くために次の事業として育つのです。

 入山教授は「日本企業の多くは、知の探索をやらず、センスメイキングもやらず、大きくなった事業をドンと買う傾向がある」と指摘します。

 身の丈にあわない巨額M&A案件で失敗した日本企業は数知れません。それは「知の探索」ではなく「知の深化」に巨額な投資をしてしまったからで、事業ポートフォリオを組み替えて成長する営みを怠ったツケでもあったのです。

 さて、今号のDHBRの特集は「デジタルディスラプションに立ち向かう 成熟企業の競争戦略」です。特集の概要については「デジタルディスラプションに成熟企業はどう対抗するか」の記事に譲りますが、入山教授の視点も踏まえてお読みいただければ、デジタルディスラプションの波に飲まれず、長期成長するためのヒントを得られるのではないでしょうか。

 ぜひ、ご一読いただければ幸いです。

(編集長・小島健志)