
現代のリーダーには、従業員に思いやりを示しながら、組織が求めるパフォーマンスを確実に上げてもらうという、困難な課題を同時にクリアすることが求められている。しかし、これを両立するのは容易ではなく、多くのリーダーが「思いやりか、パフォーマンスか」の二者択一の発想に陥りがちだ。本稿では、リーダーとして思いやりを示しながら、従業員のパフォーマンス向上を実現するための4つのポイントを紹介する。
昨年(2021年)のホリデーシーズン直前、ある医療保険会社でカスタマーサービス部門の責任者を務めるローザは、毎月実施しているタウンホールミーティングをキャンセルした。社員は年末の目標達成に追われているから、スケジュールが1時間分空けば喜ばれると考えたのだ。
その時点では、彼女の行動は完全に合理的だった。ところが、それが裏目に出た。信頼するマネジャーの一人から、社員たちが休憩室で「上の奴らはいつも人間より数字を優先する」と不満をこぼしていたと伝えられたのだ。
ローザは後に、筆者らにこう語った。「失敗してしまった。彼らの時間の制約を取り除くことで思いやりを示したつもりだったが、結果を出さなければならないというプレッシャーにさらされている彼らには、『仕事に集中しろ』というメッセージに聞こえてしまった」
ローザのエピソードは、思いやりを示しつつパフォーマンスを高めるという2つのニーズの複雑な関係に、マネジャーが対処する難しさを物語っている。
筆者らが最近、ホスピタリティや自動車、バイオテクノロジーなど幅広い業界のシニアビジネスリーダー300人を対象に行った世界規模の調査では、従業員にとってのサポートの必要性と、企業として必要な高いパフォーマンスのバランスを取ることに苦心していると回答した人が61%に上った。
真のリーダーシップには思いやりとアカウンタビリティ(結果に対する説明責任)の両面が必要だと多くの人が信じているが、この調査結果からは、実際にそのようなリーダーシップを発揮するのが、これまでにも増して難しいことが伺える。
私たちがいま経験しているのは、結果についていっさいの妥協が許されない中で、思いやりを示すことも強く求められるという事態だ。その結果、多くのリーダーが、「思いやりか、パフォーマンスか」の二者択一で考えるという罠に陥っている。どちらも不可欠だということは彼らもわかってはいるが、従業員を最大限にサポートしながら、高いパフォーマンスを発揮させるのは困難だと感じているのだ。
思いやりの強化とパフォーマンス向上という二重の要求は、「コロナ疲れ」によって、従業員もリーダーも顧客も疲弊しているタイミングで押し寄せている。これらの極端な要求は消え去りそうにない。持続可能な形で思いやりとパフォーマンスの両立を実現するために、リーダーにはデータ、優先順位付け、セットアップ、そしてコラボレーションが求められる。