
コロナ禍が従業員の心身の健康を蝕み、ウェルビーイングを低下させたのは確かだ。ただし、パンデミック前の「ノーマル」に回帰することが理想だとは言えない。女性、なかでも非白人女性は、コロナ禍以前から不平等な労働環境で働くことを強いられていたからだ。大退職時代に女性従業員の流出を食い止めるために、性別や人種を問わず、誰もが平等な環境で働くことのできる職場をどうすればつくれるのか。
2年あまりのコロナ禍は、労働者の健康やウェルビーイングに甚大な影響を与えてきた。所得の減少や失業に加えて、歴史的な公衆衛生の危機の渦中で仕事をしたり、仕事を探したりすることによるストレスが、彼らに大打撃を与えている。
リモートワークが文字通り、命を守り、仕事を守る方法だったのは間違いないが、これは大きな代償をもたらした。若手は仕事上の重要な人間関係を構築することが難しくなった。いつでも仕事ができる柔軟性は、常に働き続けることにつながった。働きながら子育てする親や介護者は、限界を超えた無理を強いられた。一人暮らしのリモートワーカーは、ロックダウン中に孤立の過酷さに耐えていた。
一方、リモートワークができない労働者は、新型コロナウイルスの脅威に直接的にさらされた。怒りや不安をぶつけてくる顧客やクライアントにも対応しなければならず、コロナ禍の中で働くことによるストレスがいっそう悪化した。
時計の針を巻き戻せたらいいのにと思うのは無理もない。だが、それは答えにならない。多くの労働者がコロナ禍前に戻ることはできないとわかっている。職場におけるウェルビーイングは、コロナ禍前の時点で悪化していた。特に非白人女性は、悪質な職場経験を強いられていたのだ。
女性はコロナ禍の前からバーンアウトと心身の不調を経験していた
筆者らは2018年末から2019年初めにかけて、さまざまな業界でフルタイム勤務をする、ハーバード・ビジネス・スクールのMBA取得者のデータを集めてきた。具体的には、仕事でバーンアウト(燃え尽き症候群)に陥る頻度と、職場での経験が心身の健康に負の影響をもたらしていると感じる頻度を聞いた。
その結果、業界を問わず、仕事が原因で「頻繁あるいはとても頻繁に」バーンアウトを経験したり、メンタルヘルスが悪化したり、身体的な不調さえ生じたりした女性の割合は、同じように答えた男性の割合よりも高かった。
バーンアウトについては、とりわけ顕著な違いが見られた。頻繁あるいはとても頻繁にバーンアウトを経験したと答えた人は全体の17%だったが、女性に限定すると約25%に上昇した。さらに非白人の女性に限定すると、その割合は30%近くに上った(白人女性は約23%で非白人女性よりも低いが、ほとんどの男性グループよりも高い)。実際、ラテン系の女性、黒人女性、南アジア系の女性では、頻繁あるいはとても頻繁にバーンアウトを経験した割合が30%を超えた。
同様のパターンは、仕事によって頻繁あるいはとても頻繁に心身の健康を害された、と答えた人の割合にも見られた(調査では、メンタルヘルスと身体的健康について別々の設問を用意した)。その割合は男性よりも女性で大きく、非白人女性の10%以上が、仕事によって頻繁あるいはとても頻繁に心身の健康を害されたと答えた。
その程度であれば、さほど大きな割合ではないと思うかもしれない。しかし、調査のサンプルであるMBA取得者たちが勤務しているのは、多くの場合、非白人従業員の維持と昇進に苦労する有名企業とプロフェッショナルサービス企業であることを考えると、その影響は大きいといえるだろう。
加えて、ミレニアル世代の女性はメンタルヘルスのリスクを抱える割合が突出しており、白人女性と非白人女性のそれぞれ20%近くが、仕事によって頻繁あるいはとても頻繁にメンタルヘルスを害されたと回答した。この世代の男性は比較的ましと言え、仕事で心身の健康を害されたと答えた割合は6%程度だった(ただし、南アジア系、黒人、ラテン系の男性は、白人男性よりもその割合がやや高かった)。