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グローバルの競争が激化する中、企業として生き残るだけでも難しく、トップの座に君臨し続けるのは至難の業だ。長きにわたり繁栄を続ける会社は何が違うのか。筆者らは、1934年に創業され、ファスナー業界で世界トップシェアを誇るYKKの経営に注目した。本稿では、YKKの成功を支える6つの要因と、同社の経営から得られる5つの教訓を示す。


 グローバル市場が急速に変化を遂げ、ハイパーコネクティビティが実現され、競争が激化し、顧客からの期待が高まる時代において、トップに長らく君臨するのは至難の業だ。ノキア、ブロックバスター、コダック、ボーダーズ、スポーツオーソリティ、トイザらスなどの一流ブランドは、他社が小規模プレーヤーの座に甘んじていたにもかかわらず、こぞってトップから陥落した。

 事業を立ち上げ、継続するだけでも大変なことであり、長期にわたって世界のトップの座を維持し続けることの難しさは言うまでもない。米国では、創業から10年の間におよそ65%の企業が倒産している。米労働省によれば、15年以上存続している企業はわずか25%だ。

 そこで、こんな疑問が湧く──生き残り、繁栄する企業と、滅びる企業の違いはどこにあるのだろうか。

 組織の寿命は、設立当初の目標や創業者とは関係なく、長期にわたりさまざまな市場で、どれだけ成功を収めたかにかかっている。ビジネスのレジリエンスと持続可能性に関する研究は増え続けているが、組織の寿命という視点は見過ごされがちだ。

長寿に対する洞察

 衣類のファスナーの裏側を見てみると、「YKK」という小さな3つの文字が目に入るかもしれない。YKKは日本のファスナーメーカーで、かつての社名「吉田工業株式会社」がその由来だ。

 1934年創業の同社は、年間およそ100億個のファスナーを製造・生産している。YKKグループは大きく分けてファスニング事業と建材(AP)事業の2つの事業から成る。ファスニング事業では、アパレル業界向けのファスナーなどを製造し、同社のグローバルビジネスの約40%を占める。残りの60%を担うAP事業では、窓やドア、カーテンウォール、さらには橋梁や石油・ガス業界向けの海洋清掃製品なども手掛けている。

 驚くことに、同社は何十年間も、ファスナーの売上げでマーケットリーダーの座を静かに守り続けている。YKKの成功と長寿の秘訣はどこにあるのだろうか。

 筆者らは過去3年間にわたり、YKKの米国事業の調査を行ってきた。ジョージア州メーコンにあるYKKナショナル・マニュファクチャリング・センターを初めて訪問したのは、2019年のことだ。

 その時の訪問では舞台裏を見学し、バイスプレジデント(コミュニティエンゲージメント・コーポレートコミュニケーション担当)をはじめ、複数の経営幹部と従業員に非公式なインタビューを実施した。また、業界の専門家に話を聞き、ジョージア州の経済紙におけるYKKの報道もモニタリングした。

 また、現地訪問に加えて、フィールド調査の方法論や、社内資料(プレスリリース、年次報告書)および社外資料(メディア報道、業界分析など)から一次データと二次データを推定して組み合わせる手法についてトレーニングを受けた。

 YKKは現在、100社ほどの100%子会社を通じて73カ国で事業を展開している。創業以来、「より良いものを、より安く、より速く」をモットーに、ファスナーやプラスチック金具、面ファスナー、スナップボタンなど多様な製品を提供している。

 原材料は自社で調達し、特許を取得した製造装置の開発も行う。これによって製品の品質を高く保てると同時に、コスト削減、供給の予測、知財の保護も可能になる。何より重要なのは、そのおかげで顧客のニーズに迅速に対応できる点だ。

 このように見ていくと、YKKがマーケットリーダーシップを維持している理由が、顧客ニーズに適応する能力、品質へのこだわり、アジャイルなサプライチェーンの活用にあることは、明白なように思える。しかし、品質へのこだわりや顧客ニーズの充足は、それなくして成功する企業はまずないという意味で「最低条件」にすぎない。YKKの成功を真に理解するためには、その先の要素に注目する必要がある。

 YKKが成功を続けてきた理由は、より複雑で、さまざまな要素が入り混じっている。筆者らは、同社の長寿の秘訣を6つの要因の組み合わせから説明できると考えている。いずれの要因も単独でのユニークさはないが、それらの要因が相互に作用することで、YKKは長らくトップの座を維持できている。

 6つの要因がそれぞれ、現在も続くYKKの成功にどのように寄与しているのかを見ていこう。