
無意識の差別的な言動は「マイクロアグレッション」と呼ばれているが、「マイクロ」という表現が用いられることで問題が矮小化されやすい。当事者に相手を貶める意図がないからといって、その有害さが軽減されるわけではなく、あからさまな差別的行動と同等かそれ以上の影響をもたらす。本稿では、このような言動を正しく説明する表現に置き換える必要性を説き、真にインクルーシブな組織に変わるためにリーダーがやるべきことを論じる。
「あなたの名前は『風変わり』で発音できない」と初めて同僚に言われた時、その居心地の悪さをどのように受け止めればよいか、筆者にはわからなかった。相手は褒め言葉のつもりで言ったからだ。
この出来事は、「多様性」が上流階級の白人女性の進歩を意味した時代に起きたことであり、職場で人種差別に対処するのはタブーとされた時代のことである。
心理学者でコロンビア大学ティーチャーズ・カレッジ教授のデラルド・ウィン・スーが、「マイクロアグレッション」という表現を大衆の意識に呼び戻したのは、2007年のことだ。マイクロアグレッションは1970年代、黒人が白人の同僚から日常的に受けるさりげない差別の経験を意味する表現として、精神科医でハーバード・メディカルスクール教授のチェスター・ピアスがつくった言葉だ。
この言葉は主に、非白人大学生が善意ある白人大学生や教員から日常的に、さりげない中傷や侮辱、不快なコメントを浴びせられる状況にどう対処しているかと関連して、2016年からより広範に使われるようになった。
「マイクロアグレッション」という表現は、筆者が冒頭の出来事で感じたことの本質を捉えていた。筆者は、相手の言葉が屈辱的だと感じた。しかし、そこでの真の問題は、筆者が非白人女性であることから生じる違いについて、毎日のように、一見すると無害な方法で指摘されることの累積効果だった。
このような問題を明確化し、疎外された人々の経験(職場での経験を含む)に与える影響に対処するために、共通理解を促す表現があることは大きな力を発揮する。インクルーシブ(包摂的)な職場文化を構築し、組織に有意義な変化をもたらそうと努力するリーダーが増える中、このような排他的でバイアスに満ちた行動の影響に気づき、現状を理解することが、これからますます必要とされる。同時に、「マイクロアグレッション」という言葉の使用をやめなくてはならない。