●全員を喜ばせなければならない

 筆者は、新たに背負う責任の重さで押し潰されそうだった。新しい役割では、より大きなプレッシャーに対応し、全員の期待に応えなければならないと思っていたからだ。

 自分のマインドセットが被害者モードに陥っていた。人に何かを期待されたら「ノー」と言うことはできないし、返信が必要なメールが1通でも残っていたら仕事を中断してはいけないと思っていたのだ。

 ナワズは筆者に「やるべきこと」と「やりたいこと」のリストをつくるように言った。「やるべきこと」だと思うものをすべて洗い出し、それに対応する「やりたいこと」も挙げるのだ。

 このリストによって、他人の動機や「やるべきこと」に屈することなく、自分自身の権限を明確にすることができた。他人の期待に翻弄される人(被害者)から、自分の選択を支配する人(所有者)へと切り替えられるのだ。筆者はリストのおかげで、成功に近づくための自分なりの方法を見つけることができた。

 ●ビジョンは申し分のない、完璧なものでなければならない

 筆者は、部局に提案するビジョンは、すべての関係者にアピールできるように、簡潔で、共感でき、実行可能な文言で書かれるべきであり、最初から完璧でなければならないと考えた。

 ビジョンを決定するまでの作業を何度も繰り返して欠点があらわになったり、人に負担をかけたりすることは避けたかった。常勤のポジションを得ることは私にとって一大事であったが、関係者がビジョンの策定に避ける時間は短く、その割に期待も大きい。

 ビジョンの策定は一人ではできない。また、最初から直線的でも、明確でもない。完璧を求めると、よい仕事とは何かという先入観に縛られ、前進することはできない。

 この問題を解決するために、1つか2つのアイデアから始めて、他人から意見を集めて、ビジョンを形づくり、議論し、またつくり直すという作業を何度も繰り返しながら、ビジョンを策定する必要があった。

 そうして、すぐにビジョンを共有しなければならないと思うのではなく、1年かけてビジョン策定し、つくり直し続けた。そのビジョンは、たとえばチームメンバーの家族の危機にどう対処するか、メンバー間の対立をどのように解決するかなど、厳しい決断を下すためのリトマス試験紙として機能した。

 あなたがどれほど賢明で仕事が速くても、他者に呼びかけてビジョンを一緒につくり上げれば、多様な意見を取り入れることができ、より受け入れられやすいアイデアになる。