●安全ではない

 新しいチャンスの入り口では、しばしば恐怖心に襲われることになる。新たなルールや期待、予見できない未来、曖昧な目標というすべてが安心感を揺さぶる。過去に経験した困難が再び浮かび上がり、それを暗い未来予想図に投影してしまうのだ。

 筆者はウィスコンシン州の小さな町で、移民の子どもとして育った。そのため、自分は人と違うということをよく理解している。無難な行動を取り、目立たず、人を喜ばせることに徹するという、生存や自己防衛にはそれほど役立たないスキルを身につけなければならなかった。

 部門長という役割は、少なくとも一部の人を失望させるような厳しい決断を下さなければならないという考えから、筆者の中で自動的に、次のような反応が引き起こされた。「私の決断が好ましいとは思われず、自分自身もよく思われることはない。嫌われたら、自分は安全な状況ではいられない」

 この出来事は筆者の生い立ちに関連したものだが、誰もが現実以上に大きな影を落とす恐怖と闘っている。恐怖は、人に好かれたい、絶対に間違ってはいけない、その場で最も賢く見られたいなど、さまざまな欲求から生まれる。このような恐怖から身を守ろうとして、私たちは身を隠し、無難な行動を取りがちだ。

 筆者はまず、仕事以外の安全な環境で実験してみることにした。たとえば、物理的な空間を十分に確保し、そこで立つという方法を学んだ。そうすることで自分の存在感が増し、自信も高まった。そして、成長するためにより多くの時間を要する作業項目やスキルはどれかを認識するようになった。筆者はこのような小さな実験を積み重ねて、「大胆に行動する」ことを学んだ。

 また、ナワズとの数回のミーティングを通じて、自分が他人の意図に関して特定の解釈に囚われていることや、別の解釈もできることを学んだ。たしかに、同僚が直接フィードバックして、自分の考え方が通るように筆者を操ろうとする「可能性」はある。また、彼らが筆者の成功に深く関わっていて、筆者がすべての情報を持っていないことや、以前に筆者のアプローチが失敗したことを知っているかもしれない。

 自分に対する他者の行動の理由を広く考えることで、無難な行動を取ろうという思考から自分自身を解放し、みずからをより大きな領域に解き放つことができる。

 ●怠け者で、利己的で、身勝手な人間だと思われる

 患者が看護を必要とし、同僚が対応を求め、医師が指導を切望している時に、誰が娯楽のために読書をするだろうか。

 プレッシャーのかかる仕事には、ストレスを解消し、活力を取り戻すための時間が必要だ。やることリストはけっして眠らないが、だからといって、それをベッドに持ち込む必要はない。サイ・ウェイクマンは以前、ポッドキャスト「No Ego」の中で、仕事を辞めないためには、毎晩と毎週末に仕事を辞める必要があると指摘した。

 毎日仕事を終える前に、翌日終わらせなければならないことを1つ挙げて、残りのタスクに優先順位をつけよう。1日の仕事の終わりの儀式をつくるべきだ。夕方になったらコンピュータをシャットダウンしてオフィスを出るとか、在宅勤務なら書斎の入り口をまたいでリビングルームに入ることでよい。

 セルフケアのための時間を1~2カ月前から確保して、このような小休憩を取ることをチームにも伝える。誕生日に休みを取った時も、それを周囲に伝える。同僚と透明性を保つことで、彼らが自分の「悪魔」を退治することができる。

 自分自身の恐れや間違った期待が足かせとなっては、夢を実現することはできない。自分の悪魔に目を向け、それを明らかにすることで、自分自身のため、チームや組織のため、そして奉仕する人たちのために、最高の仕事をする基盤を整えることができる。


"Overcoming Self-Doubt in the Face of a Big Promotion," HBR.org, March 29, 2022.