●最高経営幹部以外にもコーチングを提供する
コーチングは、従業員に最も求められている福利厚生の一つであり、確実に成功をもたらすことが証明されている。
とはいえ最近になるまで、コーチングを受けられるのは、会社が投資する価値があると見なすシニアエグゼクティブと成績優秀者にほぼ限定されていた。ここ数年(特にコロナ禍以来)は、マネジャーやHRリーダーは多忙を極め、十分な時間を取れないことから、コーチングに対する従業員のニーズの高さに対応できずにいる。
多くの小売業者と異なり、ウォルマートの会員制スーパーマーケット、サムズ・クラブは、2021年末の時点で600店舗のポジションがすべて埋まっていた。なぜそのようなことができたのか。
成功の理由は自社の強力な能力開発プログラムにあると、フィールド・ラーニング・アンド・ディベロップメント担当シニアディレクターのジェニファー・ブキャナンは、米国人材マネジメント協会(SHRM)の記事の中で語っている。このプログラムでは、9万5000人のアソシエートが「現在のポジションに不可欠なスキルを習得するとともに、将来就きたいポジションに必要だと思われるスキルを伸ばす」ことができるという。
投資家にロボアドバイザーを提供するベターメントは、あらゆる職階の従業員に1対1でコーチングを受ける機会を提供している。ディレクター以上は年6回、ディレクターより下の職階は年3回、コーチングセッションを受けることができる。
「従業員は、自分が昇進したいと思っている時にコーチングを受けようとする」と、同社の元バイスプレジデントで人材開発の責任者を務めたスーザン・ジャスタスは筆者に語った。「どうすれば会議の席で自分の実力を上手にアピールできるか、あるいはチームメンバーの管理に苦労していて、どうすれば部下と難しい会話ができるのかと悩んでいる時も、コーチの助けがほしいと考える」
コーチングの領域で歓迎すべき変化の一つは、アクセスする機会が拡大していることだ。最高経営幹部以外にもコーチングの機会を提供する企業が出現し、それが新たな潮流となっているのだ。いくつかの例を以下に紹介しよう。
・ブレイブリーは、コーチングに「全従業員対象・ボトムアップ型」のアプローチを採用し、従業員全員が何度でもコーチングを受けられる。
・アーリーステージのスタートアップであるテラワットはグループコーチングの機会を提供し、それが組織にさまざまな従業員グループを形成する「影の立役者」になっているという(同社は筆者のクライアントである)。
・データ主導プラットフォームのトーチは、HRリーダーが従業員に講座やコーチング、メンタリングを提供する支援を行っている。
・モダンヘルスは、人工知能(AI)を活用し、ライフコーチやキャリアコーチからセラピーまで、各従業員に最適なサポート方法を特定するとともに、誰の成長が同社を「ユニコーン」に成長させる助けになるかを判断している(筆者は同社に投資している)。
コーチングは実際に、従業員を個人としてもプロフェッショナルとしても成長させる。デロイトは、「コーチング文化は、企業の業績、従業員エンゲージメント、そして定着率全体と最も相関性が高いプラクティスだ」とし、リーダーシップが多大な影響力を発揮する組織だと考えられる企業は「そうでない企業に比べて、マネジメントの能力開発に1.5~3倍の投資をしている」と指摘している。
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私たちは、人々の生活や優先事項が劇的な変化を遂げているのを目の当たりにしている。まさにその人たちが最も必要としているもの、すなわち個人とキャリアの両方の能力開発を職場で実現することで、従業員をチームの一員として組織に惹きつけ、定着させるだけでなく、誰もがもっとやりがいを得られる世界の構築に貢献することができるだろう。
"3 Ways to Boost Retention Through Professional Development," HBR.org, April 05, 2022.