Juan Moyano/Stocksy

「人を支援する」方針を掲げて、創業者の潜在能力に対して投資を行うベンチャーキャピタリストがますます増えている。ただし、創業者自身が投資家に「自己申告」した内容に基づき意思決定を行っているケースが多く、実際の専門性とアピールした情報の間に乖離があるため、投資家が見極めを誤り、貴重な資金が蒸発するリスクがある。本稿では、米国のベンチャー企業4000社以上の創業者を対象にした分析調査から、投資すべき起業家を見極める方法を紹介し、逆に創業者がみずからを投資対象としてアピールする際の留意点を論じる。


 ウォーレン・バフェットからマーク・アンドリーセンまで、最近のベンチャーキャピタリストの間では、「会社を支援するのではなく人を支援する」という方針を掲げることがますます一般的になっている。

 この方針は十分に理解できる。スタートアップが成功できるかどうかは、創業者の能力に大きく左右されるからだ。しかし当然ながら、ある人間の潜在能力を客観的に評価することは、ビジネスプランやテクノロジーの潜在的な可能性を評価するより、はるかに難しい。

 投資家が創業者の能力を評価するための数値指標はいくつかあるが、実際には創業者自身の自己申告による(しばしば誇大な)情報に基づいて、莫大な支出を伴う意思決定を行っているケースが多い。そのような投資がいかに大きな損害を生むかは、メディアで大々的に報じられたセラノスウィーワークをはじめとするカリスマ創業者の失敗例を見ればわかるはずだ。

 ベンチャーキャピタルは、どうすれば投資すべき対象を見極めることができるのか。また起業家は、どうすれば自分が投資対象としてふさわしいことを示せるのだろうか。

 筆者らは最近の研究で、ベンチャーキャピタルがアーリーステージのスタートアップに投資を決める際に、その決断を後押しする要因、およびスタートアップの長期的成功を後押しする要因について、分析調査を行った。具体的には、創業者が実際に持っている専門性と、本人の自己申告の違いに着目した。

 筆者らは、米国のベンチャー企業4000社以上の創業者について、リンクトインのプロフィールから実際の経歴とスキルに関するアピールの内容を洗い出した。

 まず、その人物が実際にどのくらいの専門性を備えているかを定量的に評価するために、過去の起業経験、マネジメント経験、事業領域と関連のあるSTEM(科学、技術、工学、数学)分野の修士号・博士号の有無を調べた。

 一方、創業者が投資家に向けて申告する専門性の度合いを評価するために、プロフィールの「スキルと推薦」セクションに書き込まれた情報をデータとして用いた。そこに記載された内容は、専門性を正確に反映したものというより、ある種のインプレッションマネジメントの産物である場合が多いからだ。

 最後に、調査対象となったスタートアップの短期的成功と長期的成功の度合いを明らかにするため、ベンチャーデータベース「クランチベース」のデータを用いて、それぞれの会社が調達した資金と、最終的にIPO(新規株式公開)もしくは買収によるイグジットに成功したかどうかを追跡した。

 興味深いことに、創業者の実際の専門性と自己申告との相関は、かなり低いものだった。つまり、高いスキルの持ち主は、必ずしもセルフプレゼンテーションに熱心ではなく、逆に高いスキルを持っているとアピールしている人物が、必ずしも経験や資質があるとは限らないのだ。

 この傾向は、筆者らの研究で見えてきた、もう一つの現象の一因になっている可能性がある。創業者が実際に持っている専門性の高さは、イグジットの成功と強い相関が見られるのに対して、資金調達に関しては、実際の専門性よりもセルフプレゼンテーションのほうが、はるかに相関が強いのだ。

 換言すると、長期的に成功するかどうかは、実際の専門性の産物という側面が強いのに対して、当座の資金調達が成功するかどうかは、効果的なセルフプレゼンテーションの産物という側面が強いのかもしれない。