
過去10年、企業のマーケティングはデジタルチャネルを中心に展開されてきた。しかし、ここへきて変化の兆しが見え始めている。2021年と2022年に実施された調査で、マーケターは、テレビ、ラジオ、新聞といった従来型広告に対する支出が増加すると予測したのだ。その背景には、7つの促進要因が存在すると筆者らは指摘する。
デジタルマーケティングの技術とエコシステムは、この10年以上にわたり、マーケティング予算が増額を続ける主要因になってきた。
消費者は、固定的なメディアから、外出先でも利用できる永続的なメディアへと関心を移したため、従来型の広告は訴求力の一部を失った。結果的に、マーケターは投資対象を、テレビ、ラジオ、新聞、イベント、屋外の広告から、ティックトックやテックターゲットのようなデジタルチャネルへと変更した。
過去10年、マーケターは一貫して、従来型広告に対する自社の支出は減ると見込んできた。第28回ザ・CMOサーベイのデータによれば、2012年2月~2022年2月の従来型広告への支出は平均で毎年1.4%減少する一方、同期間におけるマーケティング予算全体の金額は毎年7.8%増加している。
しかしながら、最近の兆候は、ある変化が進みつつあることを示している。これまでの傾向とは対照的に、2021年8月と2022年2月に、マーケターは従来型広告への支出が増えると予測したのだ(それぞれ1.4%増、2.9%増)。
この変化を主導するのは、一般消費者を対象とする企業だ。従来型広告への支出増を最も多く見込んでいるのはB2Cサービス企業(10.2%増)で、その次にB2C製品企業が続いた(4.9%増)。加えて、やや皮肉なことに、売上高の100%をインターネットから上げている企業がこの変化を牽引し、今後12カ月の従来型広告への支出は11.7%増と予測している。
では、従来型広告が勢いを増している理由は何だろうか。この傾向は続くのだろうか。この変化の背景には、7つの促進要因が存在すると筆者らは考えている。
(1)デジタルクラッターをはねのける
消費者が起きている時間の大部分をオンラインで過ごす中、デジタル上の平凡な広告とエンゲージメントに対して、ますます感覚を失っている。記事閲覧や動画視聴、ウェブサイト閲覧のじゃまをするデジタル広告の氾濫に対し、彼らは不満を抱き、ネガティブなブランド連想を持つと答えた。
一例として、ハブスポットの調査によれば、回答者の57%が動画の前に流れる広告を嫌っており、43%はそれらの広告を見ることさえしない。したがってマーケターは、このようなノイズをはねのける方法を模索している。
一方、従来型広告ではエンゲージメントの高まりが見られる。マーケティングシャーパの報告によれば、消費者の過半数は、お気に入りの企業が提供する従来型のテレビ広告や郵送される印刷広告を、「頻繁に」または「常に」見たり読んだりする。
実際、エビキティの調査によると、テレビ、ラジオ、印刷媒体に代表される従来型のメディアチャネルは、コストに対するリーチ、注目度、エンゲージメントの効果において、デジタルチャネルを上回っている。
オンライン広告のコストが上がり(不正インプレッションや不正クリック、不正コンバージョンを考慮すれば、なおさら高くつく)、対照的に従来型メディアのコストが下がるにつれ、両者の費用対効果の差は拡大する。単純に、デジタルクラッター(雑音)から離れて支出を見直すことは、経済的に理に適っているのだ。
(2)従来型広告に対する消費者の信頼を利用する
前述のマーケティングシャーパの調査では、最も信頼されている広告フォーマットのトップ5はすべて従来型であり、顧客が購買意思決定の際に最も信頼するのは印刷広告(82%)、テレビ広告(80%)、ダイレクトメール広告(76%)、ラジオ広告(71%)だ。
また、英国と米国の消費者は、ソーシャルメディア広告よりも、テレビやラジオ、印刷媒体での従来型広告を信頼していることも、同じ調査で判明した。したがってマーケターは、デジタル広告にうんざりしている購買者に向けて、従来型広告を活用してブランドの信憑性と信頼を築くことができる。