
複雑な課題を解決し、変革を成功させるには、多様な能力を持つ人たちが集まり、質の高い意思決定を行うことが欠かせない。このような部門横断的な取り組みで信頼を重視しすぎると、せっかくのコラボレーションが失敗に終わる。信頼はチームワークやコラボレーションの必須条件ではないからだ。本稿では、信頼を重視することが、コラボレーティブな意思決定を妨げ、惰性を生む理由を説明し、リーダーが信頼構築と変革実行の間で適切なバランスを取ることの重要性を論じる。
組織内で対人信頼感を構築するには長い時間を要することが、研究で明らかにされている。
異なるグループの人々が集まり、部門横断的なコラボレーションで重要な戦略課題に対処する場合、彼らが一緒に仕事をしたことがなければ個人間の信頼は乏しい。スタートアップ企業が事業拡大に向けて新たに経営幹部を採用したり、既存企業が意思決定プロセスやマネジメントチームに新しい能力を持った人物を迎え入れたりする場合も同様だ。
「コラボレーションは信頼がすべてである」というようなヒューリスティックスは、上記の例が失敗する運命にあることを示唆している。組織においてインクルージョン(包摂)や部門横断的なコラボレーションが成功する確率が低いことは、その証左であるとすぐに思うかもしれない。
幸いなことに、一般に考えられているようなことはなく、信頼はチームワークとコラボレーションの必須条件ではない。チーミングや集合知に関する研究によれば、いくつかの施策を正しく行うことに注力すれば、新しい集団が信頼を築く時間を得る「前に」、効果的なコラボレーションができるようになる。
変革の成功は、多様な能力を持つ人々が集まり、組織が質の高い意思決定を下せるか否かにかかっている。多様な人材が集まる状況で、注意を払う対象を信頼の構築から、情報共有、パースペクティブテイキング、効率的な話者交代へと移すことで、組織は変化を加速し、変革を実現することができる。
信頼の構築 vs. 信頼性の証明
リーダーは、信頼に付随する反直観的なリスクに注意しなければならない。信頼に重点を置くと、従業員は優れたコラボレーションによる意思決定に必要な行動よりも、自分が信頼に値する人物であると「装う」ことを優先し、惰性的になるおそれがあるのだ。
たとえば、「有能で信頼できる人物だ」と周囲から認め続けてもらうために、物事がうまくいっていない時は情報を伏せたり、不正確な情報を共有したりすることなどが考えられる。
筆者は10年以上にわたり、ユニコーン企業への規模拡大から既存企業の変革まで、組織でコラボレーションを活用する方法について研究してきた。信頼を重視しすぎることが、いかにコラボレーティブな意思決定を妨げ惰性を生むのか、そしてリーダーはいかにして信頼構築と変革実行の適切なバランスを取ることができるのかを解説したい。