組織マネジメントに
「S字カーブ」を応用する
筆者は10年ほど前、「S字カーブ」がキャリアマネジメントの強力なツールになりうることに気づいた。S字カーブとは、新しいアイデアや技術がどのように普及していくかを示すため、社会学者のエベレット M. ロジャースが用いたことで有名になった概念だが、新しい専門分野で人々が競争力を身につけていく軌跡を示すカーブにもなっている。筆者はこれを「学習のS字カーブ」と名付けた。
新たな分野に挑戦すると、最初のうちは苦労が多く、成長スピードが遅い。これは「ローンチポイント」(起点)と呼ばれる段階だ。このフェーズを過ぎると、新しいスキルを身につけ、停滞期を乗り越えることで、成長が急速に上向くフェーズが訪れる。筆者はこの時期を「スイートスポット」(最適点)と呼ぶ。そして、S字カーブの頂点に達した時期が「マスタリー」(習熟期)だ。仕事を簡単にこなせるようになるが、同時に成長曲線も平坦になる。学ぶべきことが、ほぼなくなるからだ。ここに至ると、別の新しい学習のS字カーブのスタート地点に飛び移り、苦労しながら山登りを始めるわくわく感を再び味わうべき時期がやってくる。
学習のS字カーブは、従業員が自身のキャリア形成に役立てることもできるが、組織のマネジャーにとっても価値あるツールだ。部下と話し合う時や、チームの方針を決める時に、このシンプルな図を議論の出発点として利用できるからだ。