スター人材を留める
報酬よりも大事なもの

 過去数十年にわたり、リーダーは一つの過酷な現実に適応してこなければならなかった。それは、独自の才能を持った個人が、組織の成果物の価値──どころか時にはその本質さえも──を大きく変えてしまうことがある、という現実だ。

 たとえば、映画制作会社は、女優のジュリア・ロバーツが出演しなくても映画を制作できる。だが、彼女のいる・いないで映画は別物になってしまう。また、アメリカンフットボールのプロチームであるグリーンベイ・パッカーズは、クォーターバックのアーロン・ロジャース選手がいなくても試合はできる。だが、攻撃時の作戦の変更は余儀なくされるだろう。もしも、社内で一番のスター研究者に去られたら、その製薬会社は研究計画を変更せざるをえなくなる。投資戦略のカリスマが去ったヘッジファンドは、投資のやり方そのものを変えざるをえないだろう。

 このように、知識経済(ナレッジエコノミー)がビジネス界を席巻するようになって以来、稀少な専門技能とスキルを持つ人材が力を持つようになった。企業の幹部、研究員、資産運用責任者、芸術家、スポーツ選手、有名人──皆そうだ。同時に、技術革新による資本市場の近代化が進んだことで、昔より資金調達がはるかに容易になり、「資本から才能へ」というパワーシフトに拍車がかかっている。