空前の退職者数が示す
根本的な問題

 退職者数が記録的な水準に達し、経済のあらゆるセクターが欠員の補充に苦慮している。仕事への復帰を促そうとして、組織はかねてからの方針を変更して前例のないインセンティブを提示している。たとえば輸送関連企業は、トラックの運転を担っていた長距離ドライバーに戻ってきてもらうために、賃上げに踏み切った。カリフォルニア州の公立学校は元教員に、免許の更新なしに教壇に復帰することを認めつつある。CEOやCHRO(最高人事責任者)は、競合他社よりも魅力的なフレックス制度の導入に躍起になっている。ところが、これらの試みは根本的な問題を見落としている。

 端的に述べて、仕事は私たちに満足をもたらしていないのである。パンデミック前も現在も状況は同じだ。ADPリサーチ・インスティテュート(ADPRI)の同僚とともに実施したアンケートによると、パンデミック前に「仕事へのエンゲージメントが極めて高い」と回答した人は全体のわずか18%であり、「仕事で高いレジリエンスを発揮している」は17%、「シニアリーダーやチームリーダーを信頼している」は14%だった。米国疾病管理予防センター(CDC)が2018年に報告したところでは、成人の71%が頭痛、茫然自失、不安といった職場でのストレス症状のうち少なくとも1つを抱えていたという。

 パンデミックは従来の苦痛に加えて、いっそうの重圧をもたらした。エンゲージメントとレジリエンスは過去最低の水準にまで落ち込み、パンデミックの最中にどちらも2%低下した(2%という数字は取るに足らないように思えるかもしれないが、もともと低い水準にあった事実とサンプル数を考慮すると、統計学の観点からも実務上も有意な変化だといえる)。他方で2021年には米国労働者の4人に1人が離職し、過去最高を更新した。