
職場には、さまざまなノイズが充満している。仕切りのないオープンプランオフィスでは、周囲の雑音がひっきりなしに聞こえてくる。着信音や通知音が鳴り響き、重要な仕事に集中しようとしているのに、声をかけられて作業を中断しなくてはならないことも頻繁にある。このような喧騒の世界では、心身の健康に深刻な影響が及ぼされるだけでなく、創造性も損なわれてしまう。「常に連絡が取れる」ことが当然とされる中、集中力を高めて仕事を成し遂げるためには「静寂を重んじる」組織文化を築くことが欠かせない。本稿では、そのための3つの方法を論じる。
1787年夏のフィラデルフィアにタイムスリップして、憲法制定会議が開かれた由緒ある議事堂を訪ねたとしよう。きっと、どこか奇妙な感じがするはずだ。
ペンシルバニア州議会議事堂として使用されているインディペンデンス・ホール(独立記念館)の前の通りが、巨大な土の山に覆われているのだ。
合衆国憲法の起草者たちが、この土の防音壁をつくらせたという。馬車の音や露店の喧騒、通りを歩く人々の話し声といった外部の雑音に邪魔されて集中力を欠けば、議論に差し障ると懸念したためだ。
彼らは、修道院のような完全なる静寂を目指したわけではない。史料によれば、声高な議論や意見の対立も数多くあったようだ。しかし、この極めて困難な仕事を成し遂げるには、静かな空間が必要だという共通認識があった。それが巨大な土塁だったのだ。
それから約240年後の現在、米国の国会議員は騒音について、当時とはかなり異なる考え方をしているようだ。筆者の一人、ゾーンは数年間にわたって、米国連邦下院の立法責任者として働いていたことがあるが、いつも喧騒にまみれていて、じっくり考えることができないと感じていた。
ケーブルテレビのニュースが大音量で流れ、ツイッターの通知音が鳴り、投票を知らせるアラームが響き渡る。そして、至急の対応を迫るメールがひっきりなしに届き、ネットワーキングや政治活動、メディアマネジメントのプレッシャーが絶え間なく続く……キャピトル・ヒル(国会議事堂)に情報というノイズが充満しているのは、言うまでもなかった。
この240年間の急激な変化は、あるシンプルな事実を物語っている。組織文化は喧騒にまみれたものにも、静寂なものにもなりうるということだ。