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コロナ禍、そしてロシアによるウクライナ侵攻を機に、サプライチェーンのレジリエンスをどのように高めるかという点が注目を浴びている。多くの専門家が、企業はリスクを回避するために貿易の地域化を進めると予測したが、実態はどうなのだろうか。筆者らが調査を実施した結果、現実にそのようなトレンドは見られず、グローバルビジネスから地域ビジネスへの抜本的な変化が起きる可能性は低いことが判明した。


 企業が、最終製品を販売する市場のより近くで生産を行う「ニアショアリング」戦略を採用する中、専門家は10年以上前から、貿易パターンが「地域化」にシフトすると予測してきた。コロナ禍により、この傾向がさらに強まると予想する人も多かった。

 しかし、最近のデータを見れば、貿易の地域化に関して懐疑的にならざるをえない。パンデミックの渦中でさえ、貿易フローの距離はさらに延長した。今後、貿易の地域化が進展することもありうるかもしれないが、グローバルビジネスから地域ビジネスへの抜本的な変化が起きる可能性は低い。

地域化の進展を示す証拠は限られている

 筆者らが作成した報告書「DHLグローバル・コネクテッドネス・インデックス2021年アップデート版」は、世界の商品貿易のうち、地域内で行われている貿易の割合を追跡した。その際、地域に関する4種類の定義──世界貿易機関(WTO)による地域別、国際連合(国連)による地域別、大陸別、そしてアジア太平洋、EMEA(欧州、中東、アフリカ)、南北アメリカという3つのマクロリージョン別──を用いた。

 2003年~2012年の間、貿易の地域化の「後退」という明確なトレンドが存在したが、その後は一貫したトレンドは見られないようだ。世界を7つの地域に分類するWTOの定義を用いた場合は、2012年から2016年にかけて域内貿易が増加していたが、その流れも2016年には「終了」している。また、WTO以外の3つの定義に沿って世界を分類した場合、貿易の地域化の拡大傾向はいっさい見られなかった。

 このような地域の定義には必ず主観的な判断が含まれるため、筆者らはグローバルな貿易パターンの変化をより客観的に測定できる指標、つまり世界中のすべての貿易フローの平均移動距離に注目することが望ましいと考えている。

 地域化への強力な移行が実際に起きていたのなら、貿易の平均距離は以前より「短く」になったと推測できる。しかし、DHLグローバル・コネクテッドネス・インデックスにおける筆者らの分析では、貿易フローは2004年以降、より長く延びていたことがわかった(2012年~18年にかけて、その流れはいったん落ち着いたが)。