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多くの企業が独自の戦略を策定しているが、そのほとんどが壮大な目標を掲げたり、聞こえがいい言葉を並べたりするに留まる。戦略とは、何も決断しないまま美しい標語を打ち出すことではなく、経営陣が覚悟を持って進むべき道を選び、その選択を行った理由を従業員に伝えることである。本稿では、DPGメディア・グループの事例をもとに、経営戦略のあるべき姿について論じる。


 企業が掲げる戦略のほとんどが、大志や聞こえがいい美辞麗句を並べたものだ。

 たとえば、欧州のある大手多国籍企業は、年次報告書の中で次のように語っている。「当社の経営戦略における重要な要素として、オペレーショナルエクセレンスの継続的な追求、統合モデルの利点の最大化、技術リーダーシップの強化、そして賢明で手堅い投資が挙げられます」。

 同様に、米国のあるグローバル企業は次のように宣言している。「当社の戦略は、顧客とともに成功を掴み、自社の文化をリードし、ネットワークを拡大して、パフォーマンスを最大化する、という4つの柱に基づいています」

 だが、このように壮大な主張は、従業員に自社の方向性を伝える指針とはならない。多くの企業の従業員が自社の戦略についてほとんど知らない、あるいは理解していないと話すことも不思議でない。

 最近のある学術調査では、戦略を明確に打ち出している高業績企業でさえ、自社の戦略を知る従業員はわずか29%に留まった。同様に、筆者が2019年、欧州企業5社を対象に実施した調査でも、自社の戦略を認知していると答えた従業員はわずか35%で、その戦略に自分が従っている理由を理解していると答えた従業員の割合は20%に満たなかった。

 戦略とは大志や目標、希望的観測ではない。戦略とは「容易に覆すことのできない一連の選択」であり、どのような選択が、どのような理由でなされたかを説明することが、戦略コミュニケーションのあるべき姿だ。

 ベルギーやオランダで活動する大手メディア企業のDPGメディア・グループが、2000年代初頭のデジタルディスラプションへの対応として採用した新戦略は好例である。