規模を追求するために、DPGメディアはさらに2つの重要な選択を迫られた。第1の選択は、自社がどこの国で競争するのかである。自社のリソースが限られる以上、あまりに多くの市場へと拡大することはできない。また、その規模を考えれば、グーグルのような巨大企業が活動する大きな市場は避ける必要がある。そこで同社は、ベルギーとオランダの2カ国に専念するという決断を下した。

 第2の選択は、企業買収を通じて、短期間で必要な規模に成長することだ。同社にとって、これも新しい試みだった。それまで自分たちの力だけでオーガニックな成長を続けてきたが、もはや買収は必要不可欠であった。

 ただし、同社は質の高いジャーナリズムを提供し、消費者がそのジャーナリズムに定期購読料を支払ってアクセスすることを期待していたため、買収の対象となるのは広告ではなく購読料中心のビジネスを展開するメディア企業である。ヴァン・ティロは、「買収候補が購読料ではなく広告収入に依存しているのであれば、手を引くことになるだろう」と語った。

 規模拡大の必要性と購読料収入へのこだわりから、同社はさらなる選択を迫られることになった。すなわち、市場をリードしているブランド(彼らは「パワーブランド」と呼ぶ)に専念し、停滞している事業から投資を引き上げる、あるいは売却するという選択である。

 事業ポートフォリオに残したブランドは、デジタル時代に向けて業態を変化させた。新聞や雑誌はニュースメディアに変え、テレビはストリーミング、ラジオはポッドキャストを開始したのだ。

 また、求人情報や自動車関連情報のプラットフォームのように、メディア事業を補完する新たなオンラインサービスを開始した。以降、新製品を開発すべきか否かという判断を迫られるたびに、その製品が「その国のローカルマルチメディアの覇者になる」という新たなミッションの達成に資するものかどうかが決め手になった。

 DPGメディアが迫られた最後の選択は、これらをどのように実施すべきかである。同社は2つのビジネスモデルを採用すると決めた。プレミアムブランドでは、裕福な顧客をターゲットとして、広告が表示されないコンテンツを定額制で提供する。一方、マス市場向けブランドでは、広告収入を主な収益源とするフリーミアムモデルを採用した。

 さらに、継続的に規模を拡大するために、ローカル市場において自社の市場支配力の向上につながる買収のみを行い、デジタル時代に向けたコアビジネスの改革と新たなデジタルサービスの開発というデュアルトランスフォーメーション(二重の改革)戦略を採用した。

 DPGメディアが迫られた「容易に覆すことのできない選択」では、自分たちが何のために存在し、何を、どのように行うのか、という3つの点が問われた。決断を下すべきあらゆる選択をここに集約することはできないかもしれないが、これら3つに関する選択を行うことが、組織の戦略を決定するうえで大いに役立つ。

 多くの組織が直面している真の問題は、3つ、4つ、ないしは5つの選択をしなければならないことではない。経営幹部たちが何も決めていないことだ。組織が犯す戦略上の最大の過ちは、意思決定を下す際に1つや2つの選択で間違うことでなく、ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ポーター教授がずっと以前から指摘する通り、何も選択しないことなのだ。

 企業が成功を収めるために、戦略的に必要とされる困難な選択を行い、その選択を効果的な方法で従業員に伝達しなければならない。残念なことに、年次報告書の記載や、CEOが社内カンファレンスで伝達する内容に目を向けると、そのほとんどは自分たちの選択についてではなく、組織の目標や大志に焦点が当てられている。

 このようなコミュニケーションの取り方では、従業員は暗闇の中を手探りで進むことしかできず、組織と感情的なつながりを持つことも困難だ。戦略にまつわるコミュニケーションをほんのわずかでも改善できれば、従業員がその戦略を格段に実行しやすくなるはずだ。


"Don't Confuse Strategy with Lofty Goals," HBR.org, June 08, 2022.