テクノロジーの発展

 データサイエンティストの仕事が変わり続ける理由の一つは、彼らの使うテクノロジーが変化しているからだ。一部の技術トレンドは、2012年から変わず続いている。オープンソースのツール活用や、処理とデータストレージのクラウドへの移行などがその例だ。

 一方、データサイエンスの仕事の根幹に影響するトレンドもある。たとえば、データサイエンスの一部の要素は、自動化が進んでいる。機械学習モデルの設計や構築を自動化する「AutoML」(Automated Machine Learningの活用である。これによって、データサイエンスの専門家の生産性を向上させながら、定量的分野の訓練を限定的に受けた「市民データサイエンティスト」の可能性も同時に広げることができる。このような自動化ツールは、プロのデータサイエンティストの魅力を弱めるものではまだないが、将来的にはそうした可能性を秘めている。

 企業は、自社内の高度なアナリティクスとAIの民主化を始めるべきだ。「市民」が開発したモデルが正確で、すべての関連データが使われるよう万全を期すために、データサイエンティストに頼るとよい。

 データサイエンティストは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックのような激動するビジネス環境の中で、自分たちのモデルが「ドリフト」する(予測性能が劣化する)可能性を認識している。このため、モデル実装後の精度を監視することに重点が置かれるようになった。

 機械学習の開発と運用を協働する概念「MLOps」(Machine Learning Operations)のツールはモデルの継続的な監視を可能にし、ドリフトしたモデルを自動的に再トレーニングする機能も導入され始めている。AutoMLやMLOpsのツールの中には、アルゴリズムのバイアスをテストするものさえある。

 これらの発展が意味するのは、コーディング──おそらく10年前の執筆時には、唯一の最も一般的な職務要件であった──がデータサイエンスにおいて必須でなくなったということだ。コーディングはほかの職種に移行したか、もしくは自動化が進んでいる(ただしデータのクリーニングは、この傾向の明らかな例外だ)。

 データサイエンティストという仕事の最も重要な点は、予測モデルをつくることに加えて、ビジネス課題を読み解き、それを解くうえでの要件をモデルに変換する能力に移行しつつある。これらは協働的な活動で実現するものだが、データサイエンスの協働活動を構築しサポートするための優れたツールは、残念ながらいまだにない。

データサイエンスの倫理

 過去10年の間にデータサイエンスで生じた大きな変化の一つは、この分野における倫理的側面の必要性が広く認識されたことだ。このテーマは2012年にはほとんど語られていなかった。

 おそらく転機となったのは、2016年の米大統領選だろう。ソーシャルメディア(特にケンブリッジ・アナリティカとフェイスブック)のデータサイエンティストらは、有権者に影響を及ぼそうと企図し、選挙政治の二極化に拍車をかけた。これ以降、アルゴリズムのバイアス、透明性、そしてアナリティクスとAIの責任ある利用をめぐる問題に多大な関心が向けられてきた。

 一部の企業はすでに、責任あるAIの担当部門とプロセスを確立している。彼らの主な役割は、倫理的AIに関連する問題についてデータサイエンティストに教えることだ。倫理の欠如に対処すべく、ますます多くの規制も設けられている。

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 筆者らは、データサイエンスという職務の継続性と変化の両方を見てきた。この職は多くの点で著しい成功を収めている。そしてデータサイエンスの広い普及に伴い、関連職の増加や倫理的観点の必要性といった、いくつかの課題が生じている。ビジネスと社会において、データとアナリティクスとAIの量が減少しそうにはないため、ビジネスシーンにおけるデータサイエンティストの仕事の重要性は、今後もますます高まるだろう。

 ただし、変化も続いていくはずだ。かつてはすべて「データサイエンティスト」に分類されていた任務と役割は、引き続き分化されていくと考えられる。そのため企業においては、多岐にわたる職務に対して、スキルの詳細な分類と認定プロセスの実施が必要となるだろう。そして大規模なデータサイエンスのプロジェクトでは、必要なすべての職務の担当者を確保しなくてはならない。

 プロのデータサイエンティストは、みずからがアルゴリズムのイノベーションに注力しながらも、素人が収拾不可能な結果を招くことがないように責任を持つ必要にも迫られる。

 最も重要なことは、データサイエンティストは、データの適切な収集と責任ある分析、モデルの完全な実装、そして優れたビジネス成果に向けて貢献しなければならないということだ。


"Is Data Scientist Still the Sexiest Job of the 21st Century?" HBR.org, July 15, 2022.