
リーダーには、二者択一の選択を迫られる機会が多くある。板挟みになった時、どちらかを選ぶのは自然な流れだが、筆者らによれば、優れたリーダーは「どちらも」選ぶ発想を持っているという。この「パラドックス思考」の持ち主は、緊張状態をみずから望み、創造的に解決する。結果、仕事への活力と満足度が高まるという好循環を生む。本稿ではパラドックス思考の方法論を具体例を引用しながら解説する。
二者択一の発想を捨てる
大小を問わず組織を率いていると、相反する要求の綱引きに巻き込まれ、身動きが取れなくなることもあるだろう。現行の製品への集中を失わずに、革新や変化を起こすにはどうすればよいか。持続可能なビジネスを構築しつつ、利益を上げるにはどうすればよいか。予算を使い過ぎずに、優秀な人材を採用するにはどうすればよいか。
このような問題には共通するテーマがある。今日か明日か、使命か市場か、生産性かコストかなど、相反するプレッシャーの中で次々にジレンマが生まれることだ。しかも、対立するステークホルダーのグループが異なる立場を主張しながら、財源や時間、注目をめぐって争うことも多い。そして、リーダーは板挟みになる。
そんな時私たちは直感に従い、選択肢を並べてどちらかを選ぼうとする。つまり、AかBを選ぶ。2つのうち「どちらか」を選ぶのは自然なことで、短期的には有益である。ただし、その結果は限定的で、長期的には有害であることが多い。「二者択一」の思考は過剰なコミットメントや極端な内輪もめにつながる。
このような時、優れたリーダーは異なるアプローチを取る。彼らは対立の根底にあるパラドックスを認識して、「二者択一」ではなく「どちらも」と考える。競合する要求を同時に受け入れようとするのだ。
筆者らの共著『Both-And Thinking』でも紹介しいてるエラ・マイロン=スペクター、ジョシュ・ケラー、エイミー・イングラムとの共同研究から、「どちらも」と考えるパラドックス思考の持ち主は、利害の対立などの緊張状態に対してより創造的な反応をすることがわかった。
ファースト・ホライズン銀行のエグゼクティブ・バイスプレジデントを務めるユーセフ・バリンは、より多様性のあるエグゼクティブチームを構築するために、過小評価されているマイノリティがリーダーシップの機会にアクセスしやすいように支援したいと考えていた。そのためには、組織で過小評価されているグループのメンバーと信頼関係を築くだけでなく、彼らが継続的に成果を上げてシニアリーダーの目にとまるように、率直で、時には厳しいフィードバックを提供する必要があった。
さらに、バリンは成長中のリーダーに本来の自分らしさを発揮してほしいと考えていた。その一方で、彼らがエグゼクティブとより効果的に関わるためには組織の不文律を理解しなければならなかった。
成功や洞察を得るためには、複雑な会話が必要になることが多い。しかし、リーダー、特にマジョリティに属するリーダーは、マイノリティに属する人にパフォーマンスに関するフィードバックを行う際、相手の気分を害したり、信頼を損ねたりしないか心配になりがちだ。
そこで、バリンは「どちらも」のアプローチを模索した。信頼を築きつつ、建設的なフィードバックを提供する。過小評価されているマイノリティに特有の文脈を尊重して価値を認め、支配的な文化の中で成功できるように後押しする。これらのことをバリンはどのように実現したのだろうか。