データサイエンティストだけでは
イノベーションを実現できない
この10年、スイスの製薬大手ノバルティスはデジタル・トランスフォーメーション(DX)に大規模な投資を行ってきた。技術基盤をクラウドに移行し、データプラットフォームの構築やデータ統合を進め、その過程で人工知能(AI)の専門家やデータサイエンティストを採用し、機械学習モデルをいくつも構築して、それらを組織の上層から下層まで全社的に使えるようにした。
だが、技術担当チームの数が増えたにもかかわらず、営業、サプライチェーン、人事、財務、マーケティングなど社内の事業部門のマネジャーは誰一人として、新たに利用可能となった情報を活用していなかった。データを活かして、自分のチームの仕事をどのように高度化できるか考えることすらなかった。
一方で、新規採用したデータサイエンティストたちは、事業部門がふだんどのような仕事をしているのかほとんど理解しておらず、そのような日常業務とデータを統合させるのに苦労していた。その結果、ノバルティスのDX投資は数少ない成功例(R&Dプロセスの一部など)を除き、多くのプロジェクトや試験的取り組みが不調に終わったのである。