仏大手IT企業は
DXをなぜ実現できたのか

 2008年、フランスのITサービス企業アトスのCEOに就任したティエリー・ブルトンは、大規模なデジタル・トランスフォーメーション(DX)をすぐさま実行する必要があることに気づいた。

 アトスは、オンライン取引やシステム統合、サイバーセキュリティなどのサービスを提供する大手IT企業である。世界金融危機の中においても、年間6%近く成長し、その売上高は62億ドルに達していた。しかしながら、事業や部門における縦割りの弊害が生じており、経営資源を十分に活用できず、その成長スピードは同業他社に劣っていた。全社的にさらなるイノベーションが必要で、事態を前進させるには、DXの実行が唯一の手段だったのだ。

 とはいえ、大手IT企業のDXとは、いったいどのようなものか。CEOのブルトンは、アトスの規模拡大とグローバル化から始めた。具体的にはこうだ。彼はまず、従業員数をそれまでの2倍の10万人にした。その狙いは、周囲のあらゆる競合からの攻撃をかわすことだった。競合とは、シリコンバレーやインド、中国などのデジタル時代に誕生したスタートアップ企業などである。そして次に、人工知能(AI)やほかのデータドリブン経営のための技術を業務プロセスに組み込み、従業員のスキルを向上させる計画も策定した。