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組織が求めるイノベーションの芽は、組織の最下層に眠っていることが多い。にもかかわらず、ヒエラルキー型組織の特性ゆえに、その芽が押し潰されてしまうことも少なくない。トップの意見を過大評価し、従業員の意見を過小評価する「権威バイアス」が原因だ。アイデアや提案、見解の内容自体ではなく、「誰の意見か」が重要な判断材料にされる組織では、真のイノベーションは生まれない。本稿では、権威バイアスを解消し、フラットな文化を受け入れ、ボトムアップのイノベーションを起こすための3つのステップを紹介する。

イノベーションの芽は、組織の最下層に眠っている

 チームでイノベーションに取り組む場合、メンバー同士のやり取りの質によって、新たな発見が生まれるペースが大きく左右される。

 チームが健全な状態にあれば、メンバーのやり取りは率直で自由闊達なものとなり、やる気に満ちあふれる。しかし、チームが不健全な状態になると、メンバーは沈黙したり、表面的に感じのよい態度で振る舞ったりしかねない。あるいは、感じのよい振りをして、押し黙っている場合もあるだろう。

 イノベーションを成し遂げるために必要なノウハウは、多くが組織の最下層に眠っている。つまりローカルナレッジだ。にもかかわらず、マネジメント以外の従業員は、イノベーションを自分の職務の範囲外と考えている場合が多い。

 たとえ、従業員自身がイノベーションの取り組みに参加したいと思っても、たいていは自分で自分にブレーキをかけてしまう。組織に根を張っている暗黙の規範によって、その種の行動が奨励されていないからだ。業務を遂行すること、そして同質性を維持することを強く求めるプレッシャーのために、イノベーションに取り組み、多様性を生み出そうというモチベーションが抑え込まれてしまうのである。

 たとえば、ある大手ヘルスケア企業で働く従業員は、筆者に次のように語った。「この会社に新しく入ると、1年間、相手の話をひたすら聞き続けて初めて、自分の意見に耳を傾けてもらうことができるのです」

 このような文化的な参入障壁によって沈黙させられているうちに、イノベーションに対するモチベーションは押し潰されてしまう。この種の規範が浸透し切った状態では、創造的な成果を出そうとしても、組織全体が身動きできない状態に陥っているのだ。

 筆者が、過去10年にわたって何百ものチームを対象に研究を行ってきた結果、最も早い段階でイノベーションを押し潰してしまう、最大の文化的障壁を特定することができた。それは「権威バイアス」である。

 権威バイアスとは、ヒエラルキー型組織のトップの意見を過大評価し、最下層に位置している従業員の意見を過小評価する傾向を指す。このバイアスはやがて、指揮命令系統を過度に尊重する状況を生み出すことになる。

 組織では往々にして、アイデアや提案、見解の内容そのものではなく、その意見を誰が主張したかによって信憑性が判断される。実質的に「誰の意見か」がアイデアの質を判断する材料になっているのだ。これは「ヒエラルキー型組織での地位が高ければ、その人物の能力も高いはずだ」と考えられているからである。

 しかし、この傾向が強い場合、ヒエラルキー型組織の最下層にいる従業員が、自分の意見を声に出して伝えようとする意欲は、いつのまにか削がれてしまう。組織の頂点から遠くにいるほど、声を上げるリスクが大きく感じられるのだ。その結果、高い地位にあるほど、フィードバックを受ける機会が減ってしまう。

 ボトムアップのイノベーションを起こせるかどうかは主に、このヒエラルキー型組織の弊害をなくすことができるかどうかにかかっている。

 では、組織が本当の意味で「アイデア実力主義」を実践するには、どうすればよいか。地位や肩書、あるいは権限に関係なく、アイデアを評価し、内容本位で議論するにはどうすべきか。「フラットな文化」を築き、権限や組織階層の壁によって、コラボレーションや情報の流れが妨げられないようにするには、どうすべきか。

 本稿では、権威バイアスを解消し、フラットな文化を受け入れ、ボトムアップのイノベーションを起こすための実践的な3つのステップを紹介する。