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世界中にさまざまな危機をもたらしたコロナ禍の影響は長く続いているが、いまもなお苦しみ続けている組織もあれば、以前よりレジリエンスを強化できている組織もある。両者を分けたのは、あるシンプルな行動だったと筆者らは指摘する。すなわち、他者に助言を求め、それに沿って行動することだ。人間は過去の経験やバイアスに縛られると最善の判断ができなくなる。本稿は、異なる意見に耳を傾け、自身の意思決定に取り込むことの重要性を論じる。

思い込みを修正し、あらゆる側面を予測する

 危機が組織に与える影響は、リーダーがどのように対処するかで大きく変わる。

 たとえば、世界規模の危機である新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、世界中の組織にさまざまな危機をもたらしたが、たちまち拡大した大混乱によって苦しんだ組織もあれば、以前よりレジリエンスを増した組織もあった。

 航空業界はコロナ禍の初期に大打撃を被り、大半の航空会社はいまもなお、その余波に苦しめられている。この危機への対応にどのくらい成功しているかは、企業によってまちまちだ。

 たとえば、デルタ航空は新型コロナ危機への対応で絶賛されている。エド・バスティアンCEOの舵取りの下、同社は利用客の安全を最優先にすべく、素早く対策を講じた。2020年、同社はヘルスケアサービスと医学研究で有名なメイヨー・クリニックと契約し、ウイルス対策となる清掃・換気のルール策定、旅客機内でソーシャルディスタンスを確保する方法について助言を受けた。

 2021年には、メイヨー・クリニックの著名な循環器内科医であるヘンリー・ティング博士をチーフ・ヘルス・オフィサー(CHO)として招聘した。ティングは就任以来、利用客とスタッフのウェルビーイングを守るための取り組みを主導してきた。

 たとえば、デルタ航空はティングの監督の下、感染状況が落ち着いてくると、機内でのマスク着用義務を撤廃した。そのほか、新型コロナウイルス感染症の影響で疲労困憊したり、バーンアウト(燃え尽き)に苦しんだりする従業員に向けて、24時間対応のメンタルヘルスおよびカウンセリングのサービスを設けるなどした。

 デルタ航空は、コロナ禍の嵐を巧みに乗り切った企業として、研究者やメディアに称賛されている。CEOのバスティアンも、危機における強力なリーダーの手本と位置付けられた。

 新型コロナ危機への対応で称賛を浴びた組織は、デルタ航空だけではない。NBA(全米プロバスケットボール協会)のコミッショナーを務めるアダム・シルバーは、2020年にシーズンの中断を決断し、大きな反響を呼んだ。これは、1億9000万ドルという巨額の収益を失うことを意味する、思い切った決定だった。

 また、NBAは選手や関係者を隔離して外部との接触を遮断する「バブル方式」を導入し、選手やファンの間での感染拡大を予防する策を講じた。このような取り組みを評価されて、シルバーは危機における偉大なリーダーとして称賛された。