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法人向けのITベンダーは、営業とマーケティングのリソースの多くを誤った活動に費やしている。売り手(セラー)は買い手(バイヤー)の動向を理解した上で、最適な手段を取る必要がある。本稿では、ベンダーの営業プロセスにおける間違いと、見直すべきポイントを解説する。

買い手は初期のリストから最終購入先を決める

その取引は負けるべくして負けた——。

最近のことである。ある買掛金管理ソフトウェア会社は、既存顧客からの契約獲得を目指していた。その顧客は、初期段階で候補企業を絞ったベンダーリストを作成していたため、契約を得られるかどうかは、営業担当者次第だった。

いざ最新ソフトウェアを紹介するデモンストレーションの段階になると、営業担当者の準備不足のせいで、ユーザーインターフェースは悪く、次世代製品のロードマップも不十分で、買い手のニーズともミスマッチという有り様だった。この顧客は、「デイワン」のリストに載せていた別の企業を選んだ。営業プロセスが始まるよりも前に候補になっていた企業だった。

 このソフトウェア会社のように、B2Bベンダーは、営業とマーケティングのリソースの多くを誤った活動に費やしている。

 たとえば、バイヤー(買い手)はベンダーのサーチプロセスに入る前に候補リストを作成しており、90%はそのリストの中から購入することになることを、ベンダー側は認識していないことが多い。セラー(売り手)は、現在の顧客や見込み顧客の最終意思決定者にアプローチする傾向があり、バイヤー企業の社内で影響力を持つ人物(社内インフルエンサー)や実際の利用者にはあまり注意を払わない。

 さらに、セラーは特定のデジタルチャネルに過度に依存し、より価値のある他のデジタルソースを放置したり、説得力のあるデモや製品ビジョンを提示するといった物理的な営業活動を軽視したりする。本契約前に、顧客の要件を満たすかどうかの証明に行う概念実証(PoC)をないがしろにすることも多い。

 その結果、別の企業に契約を取られてしまうのだ。

 ベイン・アンド・カンパニーでは、購買プロセスをより詳細に理解するために、ソフトウェア、クラウドホスティング、ハードウェア、通信、物流、マーケティング、産業機器の購買に携わる米国企業の1208人を対象に調査を実施した。

 また、バイヤー10人に広範囲なインタビューを行い、ニーズに対応する製品の認識から、どのベンダーが適格であるかの見極め、競合ベンダーの検討、最終的な決定までの各段階における習慣を調査した。

 調査およびインタビューにより、分析対象となったすべての業界に共通するバイヤーの行動に関して、テーマが明らかになった。

バイヤーはサーチプロセスを開始する前に、検討対象のベンダーのリストを作成する

 購入する製品にもよるが、回答者の80~90%はリサーチを開始する前に検討するベンダーを決めている。それと同じように重要なのが、回答者の90%は最終的に最初のリストからベンダーを選択していることだ。

 ベンダーは、どうすればこの最初のリストに入り込むことができるのか。バイヤーが好むのは、次の3つのルートだ。

 ●バイヤーはベンダーとのそれまでの付き合いを重視する

 現在の顧客に対するサービスを適切に行なうことで、その顧客の営業担当者が他社に移った場合、次回の購入につながる可能性が高まる。あるテクノロジー企業のベンチャー部門のCIO(最高情報責任者)は、前職でベライゾンを利用しており、同社は仕事がしやすく、サービスも充実していると述べた。「ベライゾンのサービスはより心が通っているように感じられ、私たちの問題や要望を理解しようとしていました。前職の経験からもそうですし、サービスがやはり素晴らしいと思えたので、同社を選びました」

 ●バイヤーは同僚の勧めを頼りにする

 信頼できる同僚は、バイヤーの間で影響力がある。コンプレッサーのサプライヤーを探していた企業のバイヤーは、同僚に候補を推薦してもらった。徹底的なリサーチと審査を経て最終的に決定したのは、その同僚が推薦する2つのベンダーだった。

 ●ベンダーのウェブサイトはリサーチに強い影響を与える

 リサーチ段階にあるバイヤーは、情報量が多く、簡単に操作できるウェブサイトを求めており、そうではないサイトには寛容ではない。

 パッケージング市場のあるバイヤーは、ベンダーのウェブサイトから納期や見積もり金額などの情報を収集し、ベンダーや製品に対して、みずから評価を低下させるような使い勝手の悪いサイトの企業は排除した。