このようなプロデューサーとディレクターの共生関係の重要性について考えていくうちに、他のプロジェクトベースのベンチャーでも同じような関係が重要なのではないかと、筆者らは考えるようになった。プロジェクトの内容が椅子のデザインであれ、車のデザインであれ、ワクチンの開発であれ、強力なパートナーシップは失敗のリスクを軽減することもできるのだ。
たとえば、イームズチェアをはじめ、ミッドセンチュリーモダニズムの名作を数多く手掛けたチャールズ&レイ・イームズ夫妻の成功のカギは、役割を明確に分け、一方がチームの顔としての役割を担っていたことだ。
ロサンゼルスのスタジオで2人は対等なパートナーだったが、チャールズはそのカリスマ性と話術で、特に性差別のあった時代にチームの顔として論理的な役割を担った。イームズオフィスに長年勤めていたある従業員は、『ワシントン・ポスト』紙のサラ・ブース・コンロイに「彼はいつも委員会に出て、スピーチをしていた」と語っている。
同様に、フォードの象徴的なプロジェクトであるマスタングは、経営者のリー・アイアコッカとデザイナーのキャロル・シェルビーが、それぞれビジネスと芸術的デザインで有名でありながら、個人の野心を忘れ、共通のビジョンに向かうことで誕生した。
シェルビーはのちに、こう振り返っている。「ある晩、アイアコッカから電話がかかってきて、『君たちは、マスタングからスポーツカーをつくれないというのか』と言われた。私は、つくることはできるが、その価値があるかどうか、つまり彼がそれで儲けられるかどうかはわからないと答えた。すると、彼は『儲かるかどうかに関心はない』と言った」
クリストファー・ポール・ベイリーが、バーバリーのCEO兼チーフ・クリエイティブ・オフィサーの座を3年という短い期間で退いたのは、映画だけでなく、ファッション業界においても役割分担が必要であることを示唆している。一人が2つの役割を担うことで、ベイリーは自由になるどころか、ビジネスとデザインの意思決定を混同したと、アナリストは指摘している。
一方、ファイザーと共同で新型コロナウイルスワクチンを開発したビオンテックの創業者エズレム・テュレジは、夫で共同創業者のウグル・シャヒンとの関係を、単なるチームワーク以上のものと考えていた。
「共生関係があるからこそ、うまく機能していると思っている(中略)ウグルがやり残したことを私が引き継ぎ、私がやり残したことを彼が引き継ぎ、私たちは同じ価値観と基準で仕事に取り組んでいる。それが、結婚していても、極めて機能的に仕事を一緒にできる理由だ」と、テュレジは述べている。
映画であれ、他の分野であれ、成功する共生関係の本質は、ジュリアーノがインタビューの中で繰り返し述べた「sponda dialettica」という言葉に集約されるかもしれない。「個人が互いの強力な相談役になる」という意味だ。ジュリアーノがこの言葉で表現していたのは、浮き沈みが激しくても、長期にわたって互いに関わり合い、プロジェクトに関わり続けようとする意志だ。
「私たちは皆、最高の映画をつくるという同じ目標のために努力している」と、ジュリアーノは言う。「私はある選択を守るためなら、10日間でも編集室にこもって監督と闘う覚悟がある。しかし、私とともに仕事をする監督は、ある選択について合意が得られない場合、私が最終的な決定権を監督に与えることを知っている。プロデューサーが『ファイナルカット』(公開用の最終編集版)を決めるべきではないと、私は考えているからだ」
そして、ジュリアーノはこう言った。「私は対話を信じている」
"What Makes Creative Partnerships Work," HBR.org, October 28, 2022.