宍倉 データガバナンス委員会によるデータ統治機構というのは、とてもいいアイデアだと思います。
企業としてはデータ主体の権利を守らなければいけないと同時に、他の企業・団体とデータ連携を図る立場でデータオーナーシップもきちんと発揮しなくてはなりません。そのためには、外部連携するデータをトレースし、データ主体の意思や権利に反する利用があった場合、あるいは2次・3次加工されそうな場合にはデータを回収できる技術的な仕組みや法的に利用を止められるルールが必要です。それがないと、安心してデータを連携できませんし、ビジネスとしてスケールさせることもできません。
最終的に残るのは、ユーザーにとって本当に価値あるビジネス
國領 先ほど申し上げた2つ目の論点、つまり、ユーザー主導でのデータ連携を実現するにも、上からのプッシュ型ではなく、下からのプル型でデータをつなぐ技術やルールが必要で、それがなかなか難しい。
行政サービスで言えば、たとえば子ども支援の政策メニューは同じ法律に基づいてつくられているのに、約1700の基礎自治体がばらばらな名前をつけているので、簡単に検索できません。それだけなら、AIを使えば解決できそうですけど、同じ名前なのに別の制度というものも存在します。
自然災害が起こった時の支援もそうで、中央省庁の縦割りの支援制度と自治体ごとの支援制度の足し算、掛け算になっていて、複雑極まりない。困っている人を助けるためのプログラムがたくさんあるのに、その存在に気づけない、必要な人に届かないという現実があります。
ネットの世界ではプル型の技術としてサーチエンジン・オプティマイゼーション(SEO)が急速に発達しました。SEOはデジタル広告のためという面もありますけど、こういうプル型の技術をユーザー利益や公助、共助のためにもっと発達させるべきだと思います。
河原 おっしゃる通りデータ検索においてユーザーが真に探そうとしている文脈をくみ取ることが重要です。データを連携させる技術、たとえばあるサービスを提供している企業が、ユーザーが求めている文脈でサービスを提供するために他社のサービスとどう連携すればいいのかを推論できる技術の発展に注目しています。
大量のデータによってアブダクション(仮説的推論)のサポートも可能になりつつあると期待しています。技術的には非常に難しく、まだ擬似的なものではありますが、ユーザー主導でのデータ連携のためにさらに発展させる意義は大きいと思います。
発展させるためにはやはり大量のデータが必要なのですが、いまはそれを一部のプラットフォーマーが握っています。データを集約する公共性のある仕組み、かつ拡張性を持った基盤をどうつくっていくか。その方針を決めていく必要があります。そして原則となるのは、ユーザーや生活者、あるいはサービスを共創していく仲間からの信頼であり、その原則を方針にも当てはめることが大前提になると考えています。
宍倉 我々はビジネスを成長させるためとか、競争優位を確立するためのデータ活用という視点に立ってしまいがちですが、最終的に残っていくビジネスやサービスはユーザーにとって本当に価値あるものだけだと考えると、プル型のデータ連携がいかに重要かということをあらためて認識しました。
いま河原が申し上げた原則は、複雑系の時代、サイバー文明社会を企業が生き抜くための原則でもあるといえそうです。