IMFの予測に含まれていないものの、あなたが注目していることはありますか。
デサイ:私は以下の点も挙げます。
・新興国の脆弱性。金利上昇のリスクが過小評価されているため。
・社外から資金を調達したい企業(負債を活用する企業であれ、高成長だが利益が出ていない企業であれ)が、選択肢の乏しさに苦しみ、経営難または倒産に陥る可能性。
・保護貿易主義と経済的な孤立主義の加速。これは世界を貧窮させるだろう。
ダイナン:コロナ禍の後の政府債務の拡大は、大きな問題になりえます。ほとんどの国では税収が減る一方で、政府支出が増えたため、2020年と2021年は大幅な財政赤字でした。そこに世界的な利上げで、多くの国(とりわけ低所得国)が債務返済に窮する可能性が高いのです。公的債務のデフォルトが相次げば、その国だけでなく、世界の金融市場にも大きな混乱が及ぶ可能性があります。
クライン:いくつか付け足すことがあります。
・最近の資産価格の変動と、世界の金融政策立案者の低成長へのコミットメントが、企業の投資にどのような影響を与えるか。
・各国の国防予算は本当に大幅に増えるのか。増えるとすれば、それは何をもたらすのか。
・インフレ抑制法によって復活した米国における産業政策は、国境を越えた投資と貿易にどのような影響を与えるのか。
・対ロシア制裁と、中国の半導体に対する制裁が、世界の分裂に与える長期的な影響。
2023年の世界経済の楽観的シナリオを教えてください。1年後に振り返った時、予想以上の成長があったとなった場合、何が作用したことになるのでしょう。
デサイ:とんでもなく楽観的なシナリオは、インフレが急速に落ち着いて2023年初めには2%台に戻り、おかげで高金利の期間は短くなり、大きな雇用喪失もない、というものですね。現在のイールドカーブをこのように解釈することは可能ですが、私には妄想のように感じられます。いまこの見解が定着していることは驚きです。
ダイナン:ソフトランディング、すなわち大きな雇用喪失を生じさせずにインフレを抑制できれば、それだけで米国にとって非常によい結果だと思います。2023年のインフレ率が、雇用を大きく減らさずに3%台に下がれば、本当によい結果でしょう。
おそらく、欧州の一部の国は、エネルギー危機により景気後退に入っていますが、ウクライナ戦争が早期に終われば、その不況も比較的すぐに収束するでしょう。
クライン:世界経済の成長に起こりうる最高のシナリオは、インフレ率の基調が自然に低下すること、そして政策立案者らがそのことに迅速に気づいて、状況に合わせた措置をとることです。
より大まかに言うと、消費を減らすのではなく、生産活動を拡大することが目標であることを政策立案者らが思い出せば、物事は改善するでしょう。ロシアがウクライナから撤退して、コモディティの輸出封鎖を解除すれば、それも助けになります。
では、悲観的なシナリオはどのようなのでしょう。どのような下方リスクが懸念されますか。
デサイ:悲観的シナリオは、賃金・物価スパイラルが起きて、2023年を通じてインフレ率が5%を超える水準に張り付いていることです。そうなれば、高金利が長期化せざるをえません。株式市場では企業価値の見直しが進んできましたが、悲観的なシナリオでは、株価が下がり続けます。業績が悪化する見通しと、高金利が続く見通しが、まだ株価に完全に織り込まれていないためです。
ダイナン:私の懸念のほとんどは、資産価格と金融市場に関するものです。利上げは株価の大幅な下落を招きましたが、これからどのくらい下がるか、まだわかりません。FRBが、現在の予想を超える利上げに踏み切らなければならない場合は、特にそうでしょう。
コロナ禍の時、住宅価格は急騰しましたが、その上昇のどのくらいの割合がバブルで、どのくらいの割合が在宅勤務者による根本的な価値観のシフトを反映しているのかわかりません。したがって、住宅ローン金利が上昇したからといって、住宅価格がどこまで下がるかはわかりません。
先に提示した通り、公的債務のデフォルトにより、金融市場が大混乱に陥る現実的な可能性もあります。
中国の成長減速も、下方リスクの原因になります。コロナ禍による大規模な経済活動の停止は過去のものとなりましたが、不動産市場の低迷は2023年の経済活動を押し下げるおそれがあります。中国市場は世界経済の大きな部分を占めますから、世界各国に大きな余波をもたらす可能性があります。
クライン:悲観的なシナリオは、政策立案者らが自分たちの間違いに気付くのが遅れてしまうことです。私たちは皆、同じ数字を分析しようとしていますが、その解釈は難しいものです。FRBが利上げのしすぎに気付くのが遅れてしまうことは、非常に大きなリスクでしょう。
もう一つの大きな下方リスクは、新しい不愉快なサプライズが起こることです。コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻がなければ、現在の世界経済はまったく違うものになっていたでしょう。2023年も何が起こるかわかりません。
"What Will the Global Economy Look Like in 2023?" HBR.org, December 16, 2022.