第1に、職場に年齢差別はあってはならないということだ。ビジネスリーダーの間では、従業員の年齢が上がると給与が高くなり、生産性は低下するから、企業にとって負債だという見方が一般的になっている。筆者らの研究は、そのような固定観念を覆すものである。年配の従業員の価値を低いと見なす偏見や、高齢者を疎外したり追い出したりすることは、ビジネスのためにならない。

 第2に、年配の「定年に近い年齢の」従業員が組織に留まれる雇用慣行(エイジフレンドリーまたはエイジインクルーシブと呼ばれることもある)は、ビジネスにとってもよい影響をもたらす。こうした雇用慣行は、年配の労働者たちにとっても、貢献の機会が広がるだけでなく、奉仕活動や長い間遠ざかっていた趣味の追求など、キャリアの終盤で生まれることが多い仕事以外の関心に対応できるようになる。

 企業は時短勤務やフレックス勤務、福利厚生は維持したまま、フルタイムからパートタイムへ切り替えることができる。そして、公式・非公式の段階的退職制度などを提供することにより、高齢のベテラン社員のモチベーションを維持し、職場につなぎ留めて彼らの価値を確保できる。

 筆者らの研究結果が意味する第3のポイントは、ひょっとすると最も重要かもしれない。伝統的な雇用形態、つまり従業員の勤続年数が長い企業は、契約スタッフやギグワーカー、プラットフォームワーカーといった代替的な雇用形態を選んだ企業よりも競争優位を持つのだ。代替的な雇用形態を利用する組織は、一つの組織での在職権や長期の勤続年数がもたらすビジネス価値を逃しているのだ。

 非雇用型の労働力を活用する決断は、人件費の面から下されることが多い。しかし人件費は方程式の半分を占めるにすぎない。残りの半分は、勤続年数の長い従業員が創出する価値だ。伝統的な雇用形態では、賃金や福利厚生などのコストが膨らむ可能性が高いが、安定と長期の勤続年数がもたらす価値は、高いコストを上回ることが多いことを証拠が示している。

 だからといって、ギグワーカーや臨時従業員が入る余地がないということではない。だが、現代の企業は、一部の人事部関係者で高まっている伝統的な雇用形態の組織を過去のものと見なす傾向や、プラットフォームワークの素晴らしさと労働システムを代替人員がこなせる個別のタスクに「分解」する素晴らしさを喧伝する人たちを、警戒すべきである。

 組織が存在するのには理由がある。それは経済学や経営学の文献にも、よく記されている通りだ。プラットフォームワークや契約勤務を支える技術革新は、そのすべて、あるいはほとんどを根底から覆すものではない。

 筆者らの研究は、そこにもう一つ重要な理由を追加する。組織は従業員が勤続年数を積み重ねるサポートをすることで、経済価値と競争優位を生み出している。非雇用型の労働力を取り入れる決断は、潜在的な経費削減効果と、伝統的な雇用形態がもたらす価値を比較検討してから下されるべきだ。


"Don't Underestimate the Value of Employee Tenure," HBR.org, January 24, 2023.