過去をビジネスに活かす企業

 たいていのビジネスリーダーは、過去よりも未来に目を向けている。業界や経済が目まぐるしく変化する中、企業幹部はみずからの仕事は現状維持でなく、ディスラプションやイノベーションを受け入れること、組織を変革すること、次なるフロンティアを開拓することだと信じている。経営学の専門家もこの考え方を支持しており、過去はイノベーションを妨げるものだととらえることが多い。

 しかし、筆者が数十年にわたり世界中の企業を研究し学んだことは、企業の歴史は戦略やモチベーションの源泉になりうるということだ。実際、歴史を思考や行動の基準とすることで継続性を確保し、ステークホルダーにレガシーの番人としてのアイデンティティ、誇り、責任感を抱かせ、進歩を促せる。この恩恵を理解した組織は、歴史を超えて前進するように努力しながらも、歴史を振り返り、敬意を払うことができるのだ。

 アムステルダム自由大学の教授で組織論が専門のシルク・イベマによると、歴史に浸るということは、単に自社の過去をバラ色に美化して懐かしむことではない。また、イベマが「ポスタルジック」と呼ぶ、組織の伝統的なアイデアや慣行を時代遅れと見なす視点でもない。むしろ両方の視点に立てるよう努力すべきだ。自社の複雑な歴史を理解し、相反するテーマを熟考することで、より繊細で洗練された思考が生まれ、過去を活かしてビジネスを前進させる機会が浮かび上がるのだ。