現実とのつながり:まだ手をつけられていない懸案に目を向ける
変革の課題には、いま組織が目標として掲げているものと、ずっと後回しにされ続けているものがある。後者は、あまりに手ごわく複雑で、政治的な性格が強いために、敬遠されているのだ。意外に感じられるかもしれないが、この後者の課題にも目を向けることこそ、前者のタイプの変革に対する支持を獲得するうえで一番の近道になるかもしれない。
現在の変革の取り組みを、ずっと放置されている未解決の課題と結びつけることができれば、成功は確実だ。誰もが認識している懸案と目の前の変革を組み合わせることにより、単に仕事が増えたと人々に感じさせるのではなく、変革を重要で不可欠なものと感じさせることができる。しかも、それを通じて、リーダー層が現場の課題から目を逸らさず、しっかり向き合っていると印象づけることもできる。
達成可能性:小さな変革を積み重ねる
長く手つかずになっている懸案に目を向ける一方で、変革を達成可能なものと感じさせることも重要だ。実際には、変革があまりに難しく、達成不可能に思えている場合が多い。たとえば、IT部門が複雑で入り組んだテクノロジーインフラを擁していれば、変革により大きな混乱が生じたり、ことによると大惨事が起きたりするのではないかと、恐れているかもしれない。
その点、多くのケースで有効なアプローチは、変革の取り組みをいくつかの小規模な課題に分割するというものだ。課題を細分化することにより、変革を取り組みやすく、達成しやすく、マネジメントしやすいものにすれば、抵抗が弱まるだろう。長期的な達成感を味わえると同時に、短期的にも成果が上がりやすくなるためだ。
真正性:リーダー自身が変革に向けた行動を取る
ロゴ、ポスター、ステッカー、Tシャツなどのグッズ類はすべて、変革に対する社員の支持を獲得し、変革の機運を盛り上げるために有効な道具ということになっている。しかし、リーダーの本気度が足りなければ、そのことは人々にすぐに伝わる。その結果、社員は、最初の盛り上がりが落ち着くまで待てば、変革を行わずに済むだろうという発想になりやすい。
変革の取り組みのうわべだけを取り繕うのではなく、リーダーは実際の行動を通じて、どのような変革が求められているのかを示すべきだ。たとえば、変革の目標が「地域コミュニティにさらに貢献する」ことだとすれば、その目標を直接的な行動に転換しよう。社員向けの有給にボランティア休暇制度を設けたり、社員が寄付を行った場合に、会社が同額の寄付をするようにしたりすればよいだろう。このように実際の行動で示すことにより、変革は言葉だけでなく、行動を伴うものになる。
公平性:中立のファシリテーターを用意する
変革を目指す過程では、対立が生まれることを覚悟しておくべきだ。CEOや最高幹部たちだけが変革を主導する場合、一人ひとりの懸念や疑問には直属の上司が対応することになる。それに、部署間の対立が持ち上がった場合は、それぞれの部署が自分たちの主張に上層部の支持を取りつけようとして競い合う。その主張が変革の取り組み全体にとって有益かどうかは、しばしば考慮されない。
変革のプロセスに第三者を介在させれば、社内政治や牽制、足の引っ張り合いによる悪影響をなくせるかもしれない。モデレーター、カウンセラー、そして社員のエンゲージメントを引き出す旗振り役を果たす人物の力を借りることにより、意思決定におけるバイアスとえこひいきを取り除くことが可能になる。この役割を担うのは、信頼できるコンサルタントでもよいし、経験豊富な業界専門家でもよいが、社外の人物であることが望ましい。
社員が変革を支持すると、何が起きるのか
変革はどのようなケースでも簡単ではないが、リーダーがどのような姿勢で臨むかによって、その取り組みが社内で受け入れられるか、拒絶されるかが大きく変わってくる。変革が受け入れられやすい環境をつくれれば、抵抗と停滞を乗り越えて前進することが格段に容易になる。変革への道がお仕着せのアプローチではなく、その会社の現実に基づいて形づくられるようになるからだ。
社員が変革を支持すれば、変革の実行が容易になるだけでなく、社員と組織の間に互恵的な関係が恒久的に築かれる。その恩恵は計り知れない。そうした関係が存在しない企業では、将来も変革に乗り出すたびに、再びゼロから社員のエンゲージメントを引き出して、抵抗を克服するプロセスを繰り返すことになる。忘れてはならない。信頼を築くには長い歳月を要するが、壊れるのは一瞬だ。
"Getting Employee Buy-In for Organizational Change," HBR.org, February 06, 2023.