
金利上昇にもかかわらず労働需要が供給を上回っているメカニズム
この1年、米連邦準備制度理事会(FRB)はインフレを抑制するために急激な利上げを重ねてきた。その結果、インフレ圧力は緩和されつつあり、ここ数カ月は経済に軟化の兆しが見えている。
一方、米国の労働市場は依然として堅調で、FRB関係者によれば「バランスを崩している」。急激な利上げにもかかわらず、労働力の需要が供給を上回っている。なぜだろうか。その主な要因は、筆者の研究によると、働く人の数が減っていることではない。働いている人がより少ない労働時間を選んでいるからだ。
逼迫する労働市場
最新の統計によると、2023年1月の非農業部門雇用者数は51万7000人増(季節調整済み)で、予想の平均の18万7000人を3倍近く上回った。失業率は3.4%に低下し、過去50年で最低の水準となっている。また、2022年12月時点で、失業者1人につき2人近い求人がある。
FRBが利上げペースを減速してインフレの抑制に努めているにもかかわらず、労働市場はなぜこれほど逼迫しているのだろうか。
エコノミストは労働人口の減少を指摘している。実際、労働市場参加率は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの直前から0.9ポイント低下している。労働年齢にある米国人のほぼ1%が、パンデミック前は働いていたが、現在は働いていないということだ。これは新型コロナに関連する早期退職だけでなく、パンデミック以前から続く長期的な傾向を反映している。しかし、筆者らの研究によると、働く人の数が減ったことだけでは説明の半分にもならない。
労働者数の減少か、労働時間の減少か
労働力の供給には、労働者の数と、労働者一人当たりの労働時間数という2つの要素がある。エコノミストは労働者の数に注目しがちで、労働供給は基本的に需給の差に合わせて調整されるため、その意味では正しい視点である。一般に、労働市場が逼迫したり緩和したりするのは、雇用者や求職者の数が増えたり減ったりするからだ。
ただし、パンデミックからの回復は例外的だ。米国の総労働時間は2019年から2022年にかけて、一人当たり年間33時間の減少に相当するほど落ち込んだ。筆者たちの推定では、このうち15時間は労働者の数の減少によるもので、残りは労働時間の減少によるものだ。
つまり、米国の雇用者の労働時間は平均すると減少している。では、誰の労働時間が減っているのだろうか。より顕著なのは学士号を持つ25~55歳の男性、高収入の男性の労働時間が最も減っている。たとえば、男性労働者の収入上位10%(年収14万ドル以上)は、2019年の週44.7時間から2022年には週43.2時間へと1時間半も減っている。対照的に、男性労働者の収入下位10%(年収2万2000ドル未満)は、2019年の週22.6時間から2022年は23.4時間に増えている。
最も労働時間を減らしているのは、長時間働いていた人でもある。男性労働者の労働時間の上位10%は、2022年に週50時間以上働いている。これでも長時間だが、2019年に男性労働者の労働時間上位10%のラインは週55時間だった。