高収入の男性の働く時間が減っている理由

 なぜ働く時間が減ったのだろうか。まず、自分の意志か、そうではないのかという問題がある。労働力市場は需要過多であることから、労働者が働く時間の短縮を余儀なくされたということは考えにくい。また、新型コロナ関連の病気や育児のために、働きたいだけ働けなかったということもなさそうだ。注目すべき点は、労働時間が2020~2021年に増えた後、2021~2022年に減っていることで、パンデミックの破壊的な影響が和らいだ時期と重なっている。

 もう一つ、労働時間が最も減っているのは働き盛りのプライムエイジ(25~54歳)の男性で、彼らは高齢者より病気の影響を受けにくく、女性より育児に費やす時間が短い。言い換えれば、病気や育児が労働時間減少の主な要因だとしたら、高齢の労働者やプライムエイジの女性のほうが、プライムエイジの男性より労働時間が減っていると予想される。実際、他の調査データによると、労働者が希望する労働時間は減っており、労働時間の減少が自発的なものであるという直接的な証拠になる。

 労働から解放された時間に、人々は何をしているのだろうか。アメリカン・タイム・ユース・サーベイの最新の数字によると、労働時間が最も減っているのは既婚男性で、彼らはより多くの時間を社交やリラックスに費やしている。

 これらの結果は、パンデミックを経験した人々が人生の優先順位を見直し、ワークライフバランスを、労働時間を減らす形で調整したことを示唆している。こうした再評価は、高収入の男性に特に多かったかもしれないが、より広い意味でのパンデミックの影響といえるだろう。ただし、この新しい傾向に自分の時間を素早く調整できたのは、誰よりも高収入の男性だった。

 そう考えると、労働時間の減少は永続的な変化かもしれない。労働供給が抑制されると、労働市場が逼迫し、それが労働者の交渉力を支える。つまり、より少ない労働時間を選択できるようになるかもしれない。

 より広い意味では、労働者にとってより長期的な恩恵が2つあるだろう。一つは、ワークライフバランスが改善されれば、労働者の心身の健康が増進して、より幸福に、おそらくはより生産的に、そして本人が望むなら高齢になっても働けるようになるかもしれない。

 もう一つは、長時間働いていた男性が労働時間を減らすと、社会的規範ゆえに男性より少ない労働時間で、より非市場的な仕事をすることが多い女性が、これまで長時間労働が要求されていたキャリアパスを選ぶようになるかもしれない。そうなれば特に所得分布の上端で、男女不平等が改善されるだろう。

 これらの調査結果は雇用主に対して、労働者、特にスキルの高い労働者が柔軟な勤務形態を重視することを改めて示している。人材を採用して維持するためには、リモートワークなどの柔軟な働き方を提供することが有効だ。企業はワークフローを再検証して、無駄な活動(たとえば、無意味な会議)を排除し、短く、柔軟な労働時間を労働者が最大限に活用できるように手助けする。

 最後に、労働者一人当たりの労働時間の減少は、金融政策において重要な意味を持つ。一人当たりの労働時間が減り、労働の供給量が減るということは、自然失業率が一般に考えられているより低くなる可能性がある。つまり、インフレを抑制するためには、一部の政策立案者が考えているほどには失業率を上昇させる必要がないかもしれない。ただし、労働市場のバランスが崩れている理由が見えてきても、労働市場の逼迫が賃金、ひいては物価水準に上昇圧力をかけ続け、FRBのインフレ対策を複雑にしているという事実は変わらない。


"Is the Tight Labor Market Due to Fewer Workers - or Fewer Hours Worked?" HBR.org, February 16, 2023.