説明のつかない人事慣行

 社員を管理するための一般的な人事慣行には、説明のつかないものが数多くある。

 なぜ企業は、社員1人当たりの採用コストにこだわるのに、適切な採用をしたかどうかの検証にほとんど時間をかけないのか。なぜ社員のパフォーマンス向上につながることがわかっているのに、企業研修があまりに少ないのだろうか。それも「給与が減ってもかまわないから研修を受けたい」という希望者が数多くいるにもかかわらずだ。また、なぜ企業は、すみやかに欠員を補充せず、仕事を滞らせるのだろうか。さらには、なぜ自社で人材を雇わず、高い金を支払って業者から派遣してもらうのだろうか。

 これらの疑問に対する答えの一つが、米国の財務会計特有の(国際基準とは異なる)人件費の扱い方である。研修費や能力開発費は、「自社の人材に投資する」といった美辞麗句が並べられているにもかかわらず、投資と見なされない。これらの費用の分類は、固定費の一種である経常費用であり、言ってみれば「カーペット」の購入費と変わらない。その他の人件費も、たとえばすべての事務職の給料や賃金も同じ費用扱いである。