落とし穴3:一見するとよい結果が悪いプロセスによって生じたことに気づかない

 最後に、主に失敗から学ぶことで陥りやすい最も危険な落とし穴を紹介する。それは、一見効果的に見える現在のプロセスが、実は将来の失敗のリスクを高めていることに気づかないことだ。なぜなら、よい結果は必ずしもよいプロセスから生まれるとは限らないからだ。それらは、長期的なコストを払って短期的な利益を生む過剰なリスクや非倫理的な行為の上に成り立っている可能性がある。

 一見成功したように見えても、問題のある隠れたプロセスがダメージをもたらすことは、エンロンやセラノスなど有名なケースを考えれば明白だ。成功の原動力が何であるかを理解せずに、失敗を減らすことだけに集中すれば、成功と思われていたものが、実際は大失敗だったことがいずれわかるかもしれない。

 たとえば、再び営業チームの例に戻ると、最も成功しているように見える営業担当者が、実は数字を誇張していたり、仲間を妨害していたりするかもしれない。このような問題は、成績が低い担当者を分析するだけでは発見できず、問題ある行為がビジネスに悪影響を及ぼしていることに人々が気づくまで、長い時間がかかることもある。

 そのためマネジャーは、成績の低い従業員がなぜ苦労しているのかだけでなく、成功している従業員がなぜ成功しているのかに注目し、いずれの結果にも関係している悪いプロセスに対処するための措置を講じることが有益だ。

有能な意思決定者は、失敗と成功の両方から学ぶ

 たしかに、失敗を無視することは解決策ではない。成功だけから学ぼうとすることにも、同様の落とし穴がある。それよりも、効果のない戦略に投資することは避け、実際によい結果と悪い結果を分ける特徴やプロセスを特定するために、マネジャーはどちらの結果にも寄与する要因を分析しなければならない。

 まずは、ある状況における失敗と成功の意味を、目に見える結果と、その結果をもたらした隠れたプロセスの両方について、明確に定義することだ。そして、その定義に基づき、失敗と成功の代表的なサンプルを特定し、どちらか一方のグループ内のパターンだけではなく、両方の違いを調べる。そして、この分析を定期的に繰り返すことで、意思決定者は時間の経過とともにこの違いがどのように変化していくかを理解し、それに応じて戦略を適応させていくことができる。

 この方法は信頼性が高いだけでなく、他にも利点がある。失敗に共通するさまざまな特徴を対象とした戦略を数多く試すよりも、失敗と成功の違いを主な対象とした戦略を試すほうが、投資の観点からは効率的である。さらに、失敗と成功の共通点を意識することで、ある介入が効果的かどうかについての確信が得られる。共通点が多いほど、単純な戦略で期待通りの結果が得られる可能性は低い。

 さらに、失敗や成功の要因が定期的に分析されていることを誰もが知っていれば、意思決定者は短期的な利益のために危険な選択や非倫理的な選択をしにくくなり、結果として将来大きな失敗をする可能性が低くなる。

 過去の経験は、将来の結果について非常に価値のある洞察を与えてくれるが、それは経験が効果的に活用された場合に限られる。筆者らの共著The Myth of Experience: Why We Learn the Wrong Lessons, and Ways to Correct ThemPublicAffairs, 2020.(未訳)では、上記の考えを発展させ、経験から学ぶという直感的で広く受け入れられているアプローチが、意思決定を助けるどころか予想外にバイアスを強めてしまうさまざまな状況を研究している。

 結局のところ、最善の教訓は、失敗と成功のどちらか一方から得られるのではない。知識は、その両方を合わせて熟慮することで得ることができるのだ。


"Don't Learn the Wrong Lessons from Failure," HBR.org, March 29, 2023.