トップとボトムの間の階層を狭める
不確実な時期には、組織は必然的に分断化される。従業員は身を潜めて自分のサイロに引きこもり、手に入る限りのコントロール感にすがりつく。
大企業では、これは特に悪影響を及ぼしかねない。リーダーは何であれ自社が直面している課題に立ち向かうために、組織を一つの方向性の下に結集させようと試みても、結局は組織における恐怖と自己防衛の衝動が生む、遠心力に対処しなくてはならないからだ。
筆者らは先頃、クライアントとの会議でエレベーターに乗っていたところ、2人の従業員がその会社のCEOの等身大パネル(その月に同社が展開していた慈善活動のプロモーション用)の前を通って乗り込んできた。彼らはパネルの人物が何者かを尋ね合っていた。有名人だろうか、知っておくべき人だろうか、と。
不幸なことに、彼らはその人物が自分たちの会社のCEOであるとは思ってもみなかったのだ。フォーチュン200に属する規模の同社では、彼らが経営トップに直接会って将来へのビジョンを聞くためには、「スキップレベル・ミーティング」(従業員と経営層が、中間の階層を飛ばして直接話をすること)以上のプロセスが必要であった。
中規模企業には、シニアリーダーと末端従業員の間に近いつながりを築けるという強みがある。規模が小さいからこそ、
大企業は、情報を段階的に伝達する面倒なプロセスに頼らざるをえない。このためメッセージが薄まり、組織の焦点を示し、信頼を強化するという意図した効果が失われる。
中規模企業は対照的に、メッセージをリーダーから直接伝えることで、従業員との直接的なつながりを築き、業務遂行の迅速化とコミットメントの強化を図ることができる。この強みを活かすために、経営層と組織全体との関わりを増やすとよい。結束を強めることが、不確実性の中で不安を和らげて信頼を育むことにつながる。
新たなチャンスと脅威に目を向け、より強固なリーダーシップを育む
大企業では、成長途上の有望なリーダーでも昇進のチャンスを得るまでに何年も待つことが多々ある。そして不安定な時代には、大企業は「お馴染みの顔ぶれ」、つまり仕事の遂行能力が知られており、実績のあるリーダーに頼る傾向があるため、有望な若手リーダーのチャンスはなくなる。
事業範囲と組織規模の面で中堅に属する企業は、敏捷性を持ち、市場での脅威とチャンスも素早く見極める。この性質は、素早く成功と失敗ができるリーダーを育てるうえで好都合だ。大企業に比べれば状況が明確に把握でき、リーダーに関する重要なフィードバックを収集し、必要となる具体的な育成支援を提供し、状況に応じて育て方を調整することができる。
困難な時期には、課題もチャンスも無限にある。残念ながら、成長途上のリーダーに賭けることで想定されるリスクとマイナス面もまた非常に大きい。その不安を拭い去ることができれば、中規模企業の発展性により、若手リーダーを育てる機会はあり余るほどもたらされる。
不満を抱えた顧客、開発が不十分な製品やサービス、あるいは順調な時期でさえ面倒なプロセスを探してみよう。経験が浅いリーダーにそれらを任せることで、新たな経験を経て次のリーダー職にステップアップする準備をさせることができる。特に、成果の実現に最初から最後まで責任を担ったことがないリーダーや、重大な問題を阻止した経験のないリーダーを選ぶとよい。
成長に向けて検討したものの、現在の市場の不安定性を切り抜けるために取り下げざるをえなかった優先事項を考えてみよう。その中から、復活や再検討が可能な要素を見つけ出したり、成長を加速させる計画を立てたりして、未来のリーダーたちを関与させるとよい。
状況が好転し、再び成長に注力する態勢が整った時、こうして育ったリーダー集団は新たなリーダーシップ経験を担う準備ができている。いまから3年後、組織の規模を広げる必要性に迫られた時には、成功し続けるためにすでに十分な経験を有した新たなリーダーがいるはずだ。
困難なトレードオフを行う際には、価値観を強調する
困難な時期にはたいてい、企業が主張する価値観はうわべだけのものであることが真っ先に露呈する。社内に個別の小さな文化が形成されやすい大企業では、価値観と行動のつながりは曖昧で表面的にすぎないと見なされがちだ。
一方、中規模企業では、経営トップによる意思決定と、中間層から末端の従業員による行動の明確なつながりが、
これを踏まえ、難しい選択を行う時には、自社が価値観にいかにコミットしているかを従業員に示そう。生産ラインを廃止したり、特定市場への注力を低減したりする必要に迫られた場合は、その選択がいかに自社の価値観に基づいているのかを明確にすべきである。調整や縮小がつらい決断でも、
筆者らが協業したある中規模企業は、長年にわたりサービスを提供してきた顧客群を、これ以上維持すると採算が合わないため手放すという苦しい決断を下す必要に迫られた。この業界では大規模なデジタル・トランスフォーメーションが進んでおり、一部のサービスがコモディティ化していた。
顧客に卓越したサービスを提供するという価値観を同社は固く守り、当該顧客を維持することを正当化してきた。だが市場の状況によって、優れたサービスの提供が不可能となったため決別が必要であるという事実と、正直に向き合うことを余儀なくされた。
しかし、顧客を冷たく切り離してサービスを提供しないまま放っておくのではなく、6カ月間にわたり彼らのサービス乗り換えを支援してくれるパートナーを同社は探し出した。
経営陣はみずからに正直であり、従業員と率直に対話し、顧客サービスの価値を新たな視点から見直したことで、当該顧客に長年尽くしてきた従業員にも決断を納得してもらえた。事後的に正当化するのではなく、オープンな姿勢で難しい選択肢に取り組み、最終的にその選択を自社の価値観としっかり一致させたのである。
たしかに不安定な時代には、大企業ならば比較的容易に耐えられる変化が、中規模企業にとっては大きな打撃となるかもしれない。しかし、より小規模な企業が厳しい時代を逆手に取る方法はある。
それらを実践する企業は、不確実性を乗り越えた時により強くなっているだけでなく、逆風が追い風に変わった時に成長する準備が整っている可能性が非常に高い。
"How Midsize Companies Can Use Uncertainty to Their Advantage," HBR.org, May 08, 2023.