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中規模企業が持つ隠れた強みを活用する
昨今の相次ぐレイオフは、失業への不安を煽ることが人材維持の戦略であるかのようなシグナルを意図せず発している。そして組織は、人材維持の重要性について混乱しているかもしれない。
失業率は依然として近年で最も低い水準にあり、仕事に対する従業員の期待も低下していない。経済が不安定な時期には、組織の優先順位の中で人材維持を格下げしてはならない。
いまこそ、自社は将来有望であり不確実性を乗り切ることができるという確信を、従業員に持たせる必要がある。そうしなければ、状況が変わった時に最も優れた人材は離職してしまい、凡庸な人材はやる気を失ったまま会社に留まることになる。
これは、中規模企業では特にリスクとなる。
離職リスクは中規模企業のほうが高いとはいえ、その規模と、より結束の固い家族的な文化は、大企業にはない隠れた強みをもたらす可能性がある。
たとえば、前述の調査では中規模企業の従業員の83%が自社に誇りを持っていると答えたのに対し、大企業の従業員では78%であった。さらに、中規模企業の従業員にとって4つの最優先事項のうち2つは、活躍・昇進の可能性(46%)と、やりがいのある仕事(45%)であった。
大企業は、これらのニーズに応えるためのリソースと洗練された人材開発プロセスを、より多く持っていると思われている。しかし、急激な成長と活躍の機会、および従業員の仕事に対するより深い満足感と意義を創出するうえで、中規模企業の積極性と一般的な職務設計のあり方が、意外な強みとなるかもしれない。
大半の中規模企業の幹部にとって、これは朗報だ。ある調査では、未来に備えるうえで2番目に大きな課題として彼らが挙げたのは、人材の維持とスキルアップであった。
混乱と変化の中で中規模企業を導きながら、自社の重要人材や文化が危機に瀕しているのではないかと心配しているリーダーは、どうすればよいのか。中規模であることと不確実性をうまく利用して切り抜ける方法を、以下にいくつか挙げる。
より広い役割ならではの知識を活用する
中規模企業は一般的に、大企業よりも急激な成長をしている状態にあり、役割やチームを専門化する機会がまだない。結果的に、多くの従業員の仕事は複数の活動や成果にまたがっている。「全員の力を総動員する」というメンタリティは、収益の増加と顧客の成果へのコミットメント強化につながるが、組織に関するより広い知識を従業員にもたらすことにもなる。
大規模な組織では、「カスタマーコーディネーター」や「営業サポートスペシャリスト」といった役割は通常、少数の個別のタスクに限定され、地域や製品カテゴリーごとに編成された複数の人員によって遂行されることが多い。
しかし中規模企業では、これらの役割は担当者の数が格段に少ないうえに、より広範な活動を含む。困難な時期には、このような幅広さを活かすことができる。採用や昇進のペースが鈍り、コストの増加を負担する能力が低下している時には、有望人材に新しい役割やプロジェクトに挑戦する機会を思い切って与えるとよい。
たとえば顧客維持や経費管理といった、不確実な時期ゆえの課題を解決する権限をチームに委譲すれば、広範な役割を担う従業員は、社内のゼネラリスト(自分の仕事だけでなく、自社全体について多くを知る人材)になるよう促される。大企業で典型的に見られる、狭い職能の専門家とは対照的な存在だ。
これにより、組織全体からの意見を統合して問題を新たな視点で見ることが可能になり、革新的な問題解決につながる。そしてチームには、新たな分野で探索し、自分たちの能力を証明するチャンスを与えることになる。彼らは他社での新たな機会を探さずして「新しい役割に挑戦する」ことができるわけだ。
これは「大きなチャンスは大企業でしか得られない」という俗説の打破にもつながる。この説が正しい場合もあるが「大きな池の小さい魚」になるという代償も伴うことを、中規模企業の従業員の大半は知っている。大企業では、より大きな役割を得るかもしれないが、
新しい経験を積みながら現実的な成果を上げる機会を、従業員に意図的に与えることで、組織に対する彼らの忠誠心の強化と、重要な問題の解決を同時に実現できる。加えて、シニアリーダーと成長途上のリーダー同士が、より緊密に交流して理解し合えるようになる。この柔軟性によって、混乱が落ち着いた後も続く成長サイクルが生まれる。