コミュニティよりも個人に働きかけている
欧米の文化は個人主義的だ。この特性はアイデアの創出やイノベーションには役立つかもしれないが、アイデア段階を超えて成長する時に必要な戦略的提携関係を構築する時は不利になることがある。『ビジネス・ベンチャリング』誌(JBV)によると、アフリカのような共同体社会の起業家は、他の企業と築いた提携関係に基づきリソースを獲得することができる。
シカモアの取った手法、とりわけ融資先獲得のために取ったアプローチは、時間をかけて構築された閉鎖的なネットワークに基づいていた。たとえば、最初の5人の顧客は、創業者の元同級生や仕事仲間だった。リーダーたちは、仕事で得た人脈をリストアップし、一人ひとりに電話をかけてアポを取るか、その電話で直接売り込む昔ながらの営業方法を取った。かなり手間がかかる作業だが、シカモアが効果的にサービスを提供できる一握りの価値の高い顧客をターゲットにするのに役立った。この最初の顧客基盤と、きめ細かな配慮が相まって、これらの顧客はシカモアに大きなロイヤルティを持つことになり、長年にわたる付き合いが生まれた。
バンクリーは、共同体ごとに、ターゲット層の言語を話せるインフルエンサーを使った。
ペイヒッポも、潜在的な顧客を代表する協会や組合と協力して、顧客がいる市場やクラスター別にブランドプレゼンスを確立する戦略を取った。協会と提携したり、イベントのスポンサーとなることで、最も重要な顧客層の間でブランド力を強化できた。
会社の真価が認められることよりも資金調達を喜んでいる
欧米のスタートアップは、マネタイズに意識が集中しているため、資金調達を成長の指標と見なしがちだ。『フィナンシャル・タイムズ』紙によると、米国では、ビジネスモデルが確立していないスタートアップに莫大な投資が集まり、「不合理な」評価額が設定されることが多い。
その好例が、認証ソフトウェアを提供するスティッチ(Stytch)だろう。創業2年目で、経常収益は100万ドルにも満たないのに、コーチュー・マネジメント(Coatue Management)をはじめとするベンチャーキャピタルから10億ドルの企業価値があると評価された。このため、市場に受け入れられている証拠や、市場のトラクション(反応)は乏しいのに、スティッチは「ユニコーン」の称号を得た。こうした「過大評価の罠」には必ず大幅な修正が伴うものだ。それを避けるためにも、企業の価値評価と価値創造には、現実的なアプローチを取る必要がある。
アフリカの場合、スタートアップの評価は、投資家のアジェンダに沿っているかではなく、市場への適合性が重視されることが多い。なんらかの認証取得や、政府の許認可取得、営業許可の取得などの節目は、その会社が着実に成長しており、周囲にインパクトを与えていることを示している。
ペイヒッポは、資金調達のおかげで事業を拡大するチャンスを得たが、プロダクトの節目も同じくらい盛大に祝福した。2022年、同社の共同創業者の一人が、ペイヒッポの融資回収率は97%になることについて一連のツイートをしたところ、大きな話題となり、それが3つのメディアに取り上げられ、ペイヒッポにとっては大きな宣伝となった(しかも宣伝費は無料だ)。同社は最近、マイクロファイナンスを買収し(本稿執筆時点では政府の承認を待っている段階)、アフリカ企業のための「ワンストップ金融サービス」になるという目標にまた一歩近づいた。
同様に、バンクリーは、規制関連のハードルを越えた時だけでなく、新規顧客数や取引上の節目(顧客を損失から救った数など)を祝った。また、創業記念日や従業員の増加も、祝うべき節目としている。
シカモアにとってハイライトは、ナイジェリアの連邦競争・消費者保護委員会 (FCCPC)の認可を得たことだ。同社は、規制当局の完全な認可を得て、フィンテック、とりわけ融資の分野できちんとした業者であるという認知度を高めたいと考えてきた。ナイジェリアで初めてFCCPCの認可を得たことで、シカモアの信頼性が高まったのは間違いない。これは大きな祝福の機会となり、また大きな一歩であるとするプレスリリースも発表した。政府機関や規制当局に対して、スタートアップも法令を遵守できることを示す機会にもなった。フィンテック業界では信用が最も大切であることを考えると、これは決定的に重要な出来事だった。
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世界中の起業家にとって、みずからの事業がきちんとしたものであることを証明するのは大きな挑戦だ。スタートアップを長く存続させるためにも、アフリカの起業たちが重視する3つの戦略を推奨したい。
・投資家ではなく、顧客に向けたストーリーテリングを練る
・個人ではなく、ステークホルダーのコミュニティに働きかける
・資金調達ではなく、具体的なビジネスの節目を祝う
本稿で紹介したシカモア、ペイヒッポ、バンクリーにおける取り組みは、アフリカのフィンテック業界では珍しいものではない。上記3つの戦略が、起業家が変化への対応力を身につけ、社会にポジティブなインパクトを与え、成功の土台になることを、筆者らは発見した。
あなたの会社は、どのくらい変革の準備ができているだろうか。
"What African Fintech Startups Can Teach Silicon Valley About Longevity," HBR.org, May 19, 2023.
            
    
    

  
  
  
          
          
          
          
          


