リサイクル資源を活用する

 循環型のビジネスモデルの中でも一般的に最もよく知られているのは、製品を製造する際に用いる資源全体に占める未使用資源の割合を最小限に抑えるというものだ。たとえば、アップルの製品は現在、リサイクル資源を20%用いている。

 リサイクル資源の使用割合を増やせば、企業は温室効果ガスの排出量を減らすことができる。セメントや鉄鋼など、温室効果ガス排出量を減らすことが難しい業種においては、排出量を減らすための有効なソリューションになりうるのだ。それに加えて、言わば「原材料セキュリティ」を向上させる効果も期待できる。セキュリティを改善して、原材料を安定的に確保できる体制を築くことは、リチウムやコバルトなどの稀少鉱物への依存度が高い業種では、とりわけ重要だ。

 しかし、マッキンゼー・アンド・カンパニーのジョイ・チェンとペール・アンデシュ・エンクビストの指摘によると、現状では、リサイクル資源の供給には限界があり、時には未使用資源よりコストがかかる場合もあるという。今後、高品質のリサイクル資源を入手しやすくし、コストを抑えるうえで有効なテクノロジーの進歩が実現すれば、大きな機会が広がるだろう。

 特に、リサイクル資源をより入手しやすく、より安価にするためには、資源の回収と分別が重要な意味を持つ。北欧最大の廃棄物処理会社ノルスク・イェンビニングCEOのビヨン・アルベ・オフスタドによれば、廃棄物処理ビジネスは、回収される廃棄物、再生可能な廃棄物の分別と処理を行うためのテクノロジー、そして処理された資源の買い手が存在しなければ成り立たない。適切なタイミングと価格と品質の素材にアクセスできるようにするために、こうした取り組みは業界規模で行う必要がある。

 ロボット工学を活用すれば、この分別のプロセスをより少ないコストで実行できるかもしれない。たとえば、アップルが開発した「デイジー」という最先端のロボットは、iPhoneをわずか18秒で分解して、コバルト、金、プラチナなどの稀少鉱物を含む、再利用可能な部品を取り出すことができる。

 サプライチェーンの透明性が欠如している状況は、役割を終えた製品の回収と分別を行う際に、その製品がどのような原材料で構成されているかを理解するうえでの大きな妨げになる。グーグルクラウドでファッション・アンド・ビューティ部門のディレクターを務めるマリア・マッケイによれば、同社は2019年に、機械学習とアナリティクスを活用して、布地のバリューチェーンで生じる環境へのインパクトの全容を理解するためのソリューションを試験的に導入した。そして2021年には、そのソリューションを衣料品以外の分野にも拡大させたという。

 一方、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)副社長のハリ・ナイルが「D3研究所」のイベントで説明したのは、同社が「ホーリーグレイル」プロジェクトと名づけた取り組みだ。これは、自社製品に「電子透かし」を入れることにより、役割を終えた製品に含まれるリサイクル可能な原材料を分別しやすくするためのものである。

1兆ドル規模のビジネスチャンスに投資する

 本稿で論じてきたようなデジタル化によるソリューションを採用し、普及させる後押しをするためには、この1兆ドル規模のビジネスチャンスへの投資を行うことが不可欠だ。しかし、循環型経済への投資の決定を担う人たちにとって、うまくいく取り組みを見つけることは容易でない。有望な機会を見極める能力がまだ十分に育まれていないためだ。

 その結果、ベンチャーキャピタルファンドは、莫大な資本支出のニーズがあるアーリーステージのスタートアップ企業への投資に腰が引けている。循環型経済に関連したソリューションは、そのような支出を必要とする場合が多いにもかかわらず、だ。一方、プライベートエクイティファンドもこれまで、アーリーステージの企業への投資に消極的だった。

 その点、ジェネレート・キャピタルのシニアマネージングディレクターであるアンドリュー・メリノは、D3研究所のイベントで一つのソリューションを紹介した。それが複数の業種に投資を行い、サステナビリティ重視のファンドをつくるというもので、旧来型のベンチャーキャピタルとプライベートエクイティが果たせていない役割を担うものだ。

 循環型経済への投資機会を存分に活かすために、投資家はそれぞれの業界に関する深い専門知識を育む一方で、投資構造のイノベーションを起こす必要がある。


"How AI Will Accelerate the Circular Economy," HBR.org, June 12, 2023.