失敗を受け入れる

 AIはほぼすべての仕事を変えるだろう。そして同時に、AIによる作業改善や自動化から一定の恩恵を受けるだろう。リーダーはいまこそ創造性を発揮して、仕事を見直し、試行錯誤を重ねて、AIがビジネスニーズを最もうまく満たす方法を見つけるために、チームが取り組み始めるよう、促すべきだ。

 AIがいつも正しい仕事をするとは限らないが、たとえ間違ったとしても、それは意味のある間違いといえる。ゼロの状態から仕事を始めるよりも、少なくとも1歩踏み出した状態から仕事を始められることで、物事を見直したり、編集したり、拡張したりといった重要な思考作業にすぐに着手できるのだ。こうした新しい作業パターンを学び、どのプロセスをどう変える必要があるか、見極めるには時間がかかるだろう。しかし、実験や学習を進歩の前提条件と見なす文化をつくれば、よりスピーディに目指す状態へ到達できるだろう。

 リーダーは従業員がAIを試して、ワークフローにどのように取り込めるかを試行錯誤できるように、失敗を許容する環境をつくる責任がある。筆者の経験では、これには、成功をほめるだけでなく、従業員がそれぞれ同じ教訓を学んで時間を無駄にすることがないように、チーム全員で教訓を共有することも重要だ。

 従業員が、知識を公式および非公式に共有できるスペースをつくろう。たとえば、クラウドソーシング方式で部門内で素早くガイドブックを作成したり、毎月の全体ミーティングでAIを使いこなすコツを取り上げるようにしてもよいだろう。敏捷なオペレーションは、AIを活用する組織の基礎になる。

「何でも学ぶ」メンタリティー

 AIが仕事をこなす近道や次善策をもたらし、従業員のイノベーションやエンゲージメントを低下させるのではないかという懸念をよく聞く。筆者の考えでは、AIのポテンシャルはそれをはるかに上回り、AIを思慮深く利用する人に競争優位をもたらすだろう。そのような従業員こそ、最も意欲的でイノベーティブな従業員になるのだ。

 AIがもたらす価値は、人間からのインプット量に比例する。単純な質問に対して、AIは単純な答えしか返さない。刺激的で質の高い質問をすれば、より複雑な分析や、より大きなアイデアがもたらされる。何でも正しい答え知っている従業員ではなく、正しい質問の仕方を知っている従業員こそが価値の高い従業員になる。未来の組織は、生成AIがもたらすコンテンツに基づき、有効な推論をできる分析的思考と問題解決能力を重視するだろう。

 マイクロソフトでは、「何でも知っている」メンタリティーよりも、「何でも学ぶ」メンタリティーのほうが、はるかに大きな進歩をもたらすと考えられている。また、AIを使いこなすための学習プロセスは険しいかもしれないが、それは時間をかけてつけるべき筋肉のようなものだ。その努力は今日から始めるべきである。企業やチームでこれを実行する方法を説明する時、筆者は以下の3つのことを伝えるようにしている。

・従業員が安全かつ責任を持ってAIを試せるように「ガードレール」を設置する。どのツールの使用が奨励され、どのデータなら入力してもよいか(よくないか)。従業員がファクトチェックやレビュー、編集をする時に従うべきガイドラインはどのようなものだろうか。

・AIを使った仕事の方法を学ぶことは、1回限りの研修ではなく、継続的なプロセスであるべきだ。学習の機会を仕事のリズムに組み込み、従業員に最新リソースを継続的に提供しよう。たとえば、あるチームは金曜日の午後を学習時間に充て、別のチームは毎月「オフィスアワー」を設けて、AIに関する質疑応答や問題解決の時間に充てる。また、従来の研修やリソースの枠を超えて考えよう。昼食を取りながら学ぶ場をつくったり、オンラインのホットラインを設けたりといった同僚の間での知識共有は、従業員がお互いから学ぶ上でどのような役に立つだろうか。

・変革管理の必要性を受け入れる。AI導入を成功させるためには、意図的かつ計画的であることが非常に重要だ。成功のための目標と尺度を明確にし、AIを扱うエキスパートや試験プログラムのリーダーを選び、ビジョンの実現を手伝ってもらおう。部門や分野によってAI運用のニーズや課題は異なるだろうが、誰もが新しい働き方に移行する中、構造的なサポートが共通のニーズになるだろう。

 AIへのプラットフォームシフトは着々と進んでいる。それは仕事を一変し、組織に競争優位をもたらすと期待されているが、そのメリットを現実のものにするには、好奇心と失敗と学習を受け入れる文化が不可欠だ。

 リーダーは、チームの将来の成功のために、いま、新たな組織文化を育むことができるユニークな立場にある。AIの能力と組み合わせれば、こうした文化はよりよい仕事の未来をすべての従業員にもたらすだろう。


"Steps to Prepare Your Culture for AI," HBR.org, June 28, 2023.