顧客体験の革新がビジネスパートナーの拡大につながった
倉橋 「顧客体験の革新」を重点領域としてからの5年間で、想定外の課題や変化はありましたか。
森 想定外のことはたくさんありました。その中でもポジティブなサプライズだったのは、お客様に喜んでいただくために顧客体験の革新に取り組んできた結果、B2Bのビジネスパートナーからも高く評価されるようになったことです。
当社は2022年、KDDIグループのauじぶん銀行、製薬会社のエーザイ、カード会社の三井住友カードと相次いで提携しました。いずれも幅広い顧客基盤とブランド力をお持ちの企業ですが、オンラインで新たな保険商品を提供したり、顧客との長期の関係を構築したりしていくうえで、ライフネット生命と組もうと判断してくださいました。その判断において、当社が高い水準のCXを提供していることが重視されていたのは、喜ばしいことでした。
一方で、あらためて実感しているのは、お客様にもっとわかりやすく、もっと便利で快適なCXを実現していくのは、終わりのない旅であり、難しい挑戦だということです。お客さまの求める水準はどんどん高まっていきますし、新たな課題も次々に出てきます。それに対応するためのシステム環境や人材への投資を常に続けなくてはなりません。
ただ、終わりのない挑戦と投資を続けなくてはいけないということは、先行者にとってアドバンテージです。後発で顧客体験の革新を始めても簡単には追いつけませんし、我々も進化を続けることで常に先へ行けます。ですから、投資のしがいがある領域だと思っています。
倉橋 終わりなき旅だからこそ、早くスタートを切ることのアドバンテージが非常に大きいということですよね。この発想はデータ活用の側面にも当てはまると思います。我々はKARTEを基盤としてさまざまな業種にわたる、数多くの企業を支援させていただいていますが、顧客中心の経営を志向されている企業ほど、お客様や世の中の進化に合わせて顧客データの活用領域がどんどん広がっています。マーケティング部門から始まった顧客データ活用が、営業部門やカスタマーサポート部門など横へと広がり、さらに顧客接点である現場から経営層へと縦にも広がり、データに基づく思考をアップデートされています。
森 顧客体験に限らず、何事にも革新に終わりはなく、完成形もないということだと思います。ですから、私たちは常に自分を変え続けなければなりません。長期にわたって変化し続ける組織であるためには、多様な人材を継続的に受け入れ、その個性や才能を発揮できる環境、マインドを醸成していくことが大事だと思います。画一的なメンバー、同じ顔触れでは、革新を続けることはできません。
倉橋 人材の点についていえば、お客様とのエンゲージメントを高めていくためには、EX(従業員体験)の革新と従業員エンゲージメントの向上が欠かせません。デジタルをうまく活用しながら、従業員が働きやすく、やりがいのある環境をつくり、前向きな気持ちでお客様に向き合えるようにすることで、CXを継続的に革新することが可能になります。労働力人口の減少が加速し、人的資本経営の重要性がますます高まっている我が国において、EXとCXの革新を表裏一体で進めていくことが、非常に大きな経営テーマになっているといえます。
最後に今後の抱負について、お聞かせください。