サマリー:不動産の製販一体という独自のビジネスモデルで、1兆円企業の仲間入りを目前にするオープンハウスグループは、徹底した顧客志向をテクノロジーとデータの活用によって推進するテック企業の顔を持つ。

まもなく不動産セクターで新たな1兆円企業が誕生しそうだ。製販一体のビジネスモデルで、10年で10倍超という“爆速成長”を実現しようとしているオープンハウスグループである。営業力こそ最大の成長ファクターと見られがちな不動産業界だが、同社は「すべてを決めるのはお客様」という徹底した顧客志向と、それを実現する仕組みづくりをテクノロジーとデータの活用によってアジャイル(迅速)に推進する不動産テック企業の顔を持つ。同社でマーケティング部門とIT部門を統括する野村育孝氏と、プレイドのVP of Salesの桑野祐一郎氏の対談を通じて爆速成長の要因に迫る。

カスタマーファーストの原則を外さない

桑野 オープンハウスグループは2013年9月に東証1部に上場され、それから10年の2023年9月期には、売上高は10倍超の1兆円突破が確実な状況です。その成長力には驚くばかりですが、データやテクノロジーもかなり積極的に活用されていますね。

野村 業界屈指の営業力に加えて、おっしゃるようにデータとテクノロジーの活用が当社の成長を支えています。

 たとえば、営業などのビジネス部門が必要なデータにクイックにアクセスし、分析できるデータ基盤をクラウド環境を活かして内製し、データに基づく意思決定や生産性向上を支援していますし、オンラインとオフラインのデータを統合することで、一人ひとりのお客様に最適な情報と顧客体験(CX)を提供するデータドリブンマーケティングを推進しています。

 当社グループがさらなる成長を遂げるためには「強い営業力」に加えて、「強いデジタルの力」を持つことが必要不可欠だと思います。

桑野 一般論としてマーケティングチームとITチームは、それぞれの慣習やカルチャーの違いからうまく折り合わず、連携が難しいケースも多いですよね。そんな中、圧倒的な成長スピードを実現しているオープンハウスグループでは、何かこだわりや工夫があるのでしょうか。

野村 社長の荒井(正昭氏)が常日頃、言っているのは「すべてを決めるのはお客様である」ということです。ここだけは常にぶらさずに、メッセージを発信しています。我々幹部クラスに対してもそうで、それ以外の指示を私は入社以来受けた記憶がないと言っていいほどです。つまり、各部門長に対しては「全部任せる。ただし、すべての判断基準はあなた自身ではなく、お客様だ」というのが方針です。

 お客様にとって住宅は、ほぼ一生に一度の買い物です。それだけ大切なものを販売する我々は、(用地の)仕入れ部門も建設部門も、営業部門も、そしてマーケティングやIT部門も、常に緊張感と一体感を持ってお客様に臨まなければなりません。まだベンチャー企業だった頃は、そういう緊張感、一体感を全社で共有しやすかったのですが、企業規模が大きくなってくるとどうしても部門ごとの縦の統制が強くなり、横の連携が弱くなりがちです。

 そこで、横の連携と統制を図り、各部門を有機的につなげるのがマーケティングであり、ITの機能だと考えています。そして、部門をつなぐ起点であり、中心となるのは常にお客様です。それは常に意識しています。

桑野 究極の顧客志向ですね。御社は仕入れから建設、販売まで製販一体の独自のビジネスモデルを構築されていることが強みであると理解していましたが、製販一体モデルが顧客起点で駆動していることが真の強みだといえそうです。

 野村さんは、複数の上場企業で役員を経験されていますが、日本企業には稀なオープンハウスグループの成長スピードの源泉は何だとお考えですか。