野村 私は社員を一つの色に染めようとは思っていません。セクションが違えば考え方は違うだろうし、社員一人ひとりの考え方も違って当然です。むしろ、そういう多様性は大切にしたい。でも、私たちが何のために仕事をするかといえば、お客様のためであり、極論すればそれと関係ない仕事は必要ありません。「お客様のため」であれば、どんどん意見をぶつけ合っていいし、多様な考え方があったほうがお客様をより正しく理解し、よりよいCXを提供できるはずです。
組織全体を同じ色で染め上げるのではなく、顧客起点というワンメッセージとそれを実現できるワンプラットフォームで、各部門を有機的につなげる。その仕組みが大事です。
桑野 一つのプラットフォームで顧客をよりよく理解し、「お客様のため」という一つのゴールに向かっていれば、セクションや個人の考え方の違いは対立構造にはならず、むしろ相乗効果や新たな顧客価値の創造につながるということですね。
野村 同じゴールを見ていれば、部門の壁はだんだんなくなります。これは私が指示したことではないのですが、いまはマーケティングとITの人事交流がどんどん進んでいます。
お客様を知るためには事業知識が必要だと、ITからマーケティング部門へ異動する社員もいれば、IT部門でデータベースを開発・運用しているチームが「マーケティングがわかっている社員がほしい」とリクエストして、マーケティング部門から人を異動させることもあり、そういう交流が現場発で活発に行われています。
当社のDX(デジタル・トランスフォーメーション)部門はマーケティング本部の中に置いているのですが、IT部門のマネジャークラスは全員DX部門を兼務しています。それに、マーケティングもITも社員の3割くらいは、営業部門を経験したうえで、異動してきています。彼ら彼女らが、最前線でお客様と接してきた経験や知識を持ち込むことで、マーケティングやITのチームがこれまでと同じ顧客データを見ていても、お客様の気持ちや表情まで感じ取れるようになってきたというか、顧客理解の解像度がより上がってきた気がします。
多くのお客様と「1on1」の関係を築きたい
桑野 御社ではKARTEに加えて、デジタル広告配信最適化のKARTE Signalsなども採用いただいていますが、新しいテクノロジーをアジャイルに導入し、事業成長のために積極的に活用していく姿勢が非常に印象的です。テクノロジーやデータ活用のスタンスについて、野村さんはどのようにお考えですか。
野村 マーケティングの世界では、統計的なデータに基づいてカスタマーをセグメントしたり、世の中のトレンドから特定のペルソナを設定したりしますが、そういう公約数的な顧客像、想像上の顧客像からは、一人ひとりのお客様の姿が見えてきません。
このお客様はなぜこういう行動を取ったのか、いま何を望んでいるのか、次にどうしたいのか。実際にお客様の行動や心理の変化を見ながら、高い解像度でお客様のことを理解し、提案する情報やコミュニケーションの取り方を検討したい。逆に言えば、セグメントやペルソナといった無機質な存在としてお客様をとらえたり、接したりすることはしたくないのです。
その意味で、KARTEはお客様を無機質な存在としてとらえがちなマーケターに、「お客様のことを思い出せよ」と喚起してくれるツールだといえます。