野村 社長の荒井がカスタマーファーストのメッセージをしつこいくらい繰り返していること、そのうえで本当に我々に権限を委譲し、「責任は自分が取る」と明言していることでしょうね。そういう経営トップの存在は、私のキャリアの中でも初めてです。
同時に、荒井は怖いくらいに記憶力がいい(笑)。社員一人ひとりの出身校や部活、宅建(宅地建物取引士)の試験の点数まで覚えているくらいです。その記憶力をもとにフォーマルな場でもインフォーマルな場でも、一人ひとりに語りかけるので、社員にしてみると「自分のことを見てくれているんだ。この人の期待は裏切れない」という気持ちになります。

Yasutaka Nomura
オープンハウスグループ
マーケティング本部長
信頼して任せるので、必然的に組織の上から下まで意思決定が速くなります。その代わり、カスタマーファーストの原則から外れたことをすると、厳しく追及されます。たとえ予算を達成したとしても、お客様の期待を裏切ったり、お客様に不満や不安が残ったりするようなことをしていたら、「そんなことをしてつくった数字は意味がない」と叱責されます。カスタマーを裏切って実績を上げても、そんなビジネスは長く続かない。そのメッセージも強く発信していますね。
ワンメッセージ、ワンプラットフォームで対立構造を打破
桑野 判断基準が明確で、権限が委譲されていれば、社員はアジャイルに意思決定できますね。ただ、売上高が1兆円を超えるような規模になると、組織全体が常に顧客起点で動ける仕組みづくりも欠かせないのではありませんか。
野村 そこが、マーケティングやITを含むコーポレート機能の役割です。
組織がどんなに大きくなり、お客様がどれほど増えても、顧客起点の原則は変えられません。まだ、会社が小さく、お客様も少なかった頃と同じ精度と解像度で、お客様一人ひとりの認知から興味・関心、比較・検討、購買へと至るファネルをきちんとフォローし、その時々でお客様が必要とされている情報やサービスを提供していくこと。これは人力だけではできませんので、御社のように我々と同じゴールに向かってしっかりと伴走してくれるパートナーを選び、CXプラットフォームの「KARTE」を導入したわけです。
営業やマーケティング、ITなどの各部門がばらばらに動いていると、お客様一人ひとりに寄り添うことはできませんし、部門間の利害対立が生じます。そうならないように、とにかくお客様中心で、顧客起点で全社が動く仕組みをつくっていく。それが、私の責任だと思っています。
桑野 一般論として、“攻め”が主体のマーケティング部門と、保守・管理といった“守り”を重視するIT部門の間では対立構造が生まれがちで、それが顧客にとって最適なCXを実現するうえでの障壁となっているケースが数多く見受けられます。野村さんはマーケティングとITの両方を統括するお立場ですが、組織づくりや部門連携といった点で重視されていることはありますか。

Yuichiro Kuwano
プレイド
執行役員/VP of Sales and Origination
野村 当社の場合、私が入社する以前は、マーケティング部門は営業組織に属し、IT部門は管理組織に属していましたが、いまはそれぞれ独立し、私が両方を統括しています。
実は、オープンハウスグループに参画する前、私は3つの会社でマーケティングとITの責任者を兼務していました。マーケティングとITは意見が食い違うことがよくありますが、一人の意思決定者が両部門に共通のメッセージを発していれば、そうした違いを乗り越えやすいといえると思います。
マーケティング部門にもIT部門にも、私が発しているメッセージは一つだけです。会社を成長させてくれるのはお客様ですから、迷った時は常にお客様にとって何が正しいかを判断軸として議論してほしいということです。