ユーザーの行動を方向づける
使いやすさ、広く一般的な利用可能性、そして多様な知識分野をカバーする便利な回答のおかげで、従業員による生成AIベースのナレッジマネジメントの導入は、急速だが不規則かつ自然発生的に進んでいる。たとえば最近のアンケート調査では、回答した従業員の3割以上が生成AIを仕事で使っていたが、68%は使用している事実を上司に報告していなかった。
ナレッジマネジメントに生成AIを応用する機会を実現し、潜在的リスクに対処するには、企業はこのシステムの成功につながる透明性と説明責任の文化を築く必要がある。
まずは方針とガイドラインを導入すること。そしてパフォーマンスと生産性の向上に向けて、仕事に生成AIの能力を安全かつ効果的に取り入れる方法を、ユーザーが理解しなくてはならない。生成AIの能力には、状況や文脈と履歴の把握、さまざまな情報源からの知識の収集や結合による新たなコンテンツの生成、データに基づく予測などが含まれ、知識労働を強力に支援する。
生成AIベースのナレッジマネジメントのシステムは、情報集約的な調査プロセス(訴訟事例の調査など)と、量が多く複雑性が低い認知的作業(顧客からの定型的なメールへの応答など)の両方を自動化できる。このアプローチによって従業員の効率性は高まり、複雑な意思決定と問題解決を伴う業務要素により多くの労力を費やすことが可能になる。
以下は、研修や方針を通じて繰り返し教え込むことが望ましいと思われる、具体的な行動の一部である。
・システムを通じてどのような種類のコンテンツを利用できるのかに関する知識
・効果的なプロンプトを作成する方法
・どのような種類のプロンプトと対話が許容され、どれが許容されないのかに関する知識
・システムに新たな知識コンテンツの追加をリクエストする方法
・顧客および協業先への対応に、システムの回答を使う方法
・新しいコンテンツを有益かつ効果的な形で作成する方法
モルガン・スタンレーとモーニングスターの両社が特にコンテンツ作成者に提供した訓練は、コンテンツを作成してタグを付ける最適な方法と、生成AIの使用に適したコンテンツの種類についてである。
「すべてが非常に速く動いている」
筆者らがインタビューした企業幹部の一人は、「今日現在の状況ならばお話できます。でも、この分野ではすべてが非常に速く動いています」と述べた。新しいLLMと、そのコンテンツをチューニングする新たな手法は毎日のように発表されている。特定のコンテンツやタスクに焦点を当てた、ベンダーからの新製品も同様だ。
自社独自の知識を生成AIシステムに組み込もうと本気で取り組む企業はすべて、今後数年にわたり、素早い変化に合わせて頻繁にアプローチを見直す覚悟が必要となる。
企業独自の知識コンテンツで訓練された生成AIシステムの構築と活用には、多くの困難な課題が伴う。だが、企業にとってのメリットは、それらの課題に取り組む努力に見合うものと筆者らは確信している。
生産性とイノベーションを促進するために、すべての従業員、そして顧客にも社内外の重要な知識への容易なアクセスを可能にするという長期的なビジョンは、大いに魅力的である。生成AIは、ついにそれを可能にするテクノロジーのようだ。
"How to Train Generative AI Using Your Company’s Data," HBR.org, July 06, 2023.