生成AIをいつ使うべきかを慎重に判断する
機械学習と自然言語処理ツールは、医療分野で健康問題への対処や予測に革命をもたらしている。津波や地震といった自然災害の予測にも役立っている。これらは有益な用途だ。
しかし、多くの演算能力を消費するこれらのツールを、ブログ記事の作成や、面白いストーリーの創作のためだけに使うのは最適な用途ではないかもしれない。人々にとっての有益性よりも、地球の健全性を損なう影響のほうが大きい可能性がある。
企業がコンテンツの制作に生成AIを導入するのであれば、モデルは必要な時にのみ使い、ほかの演算コストの抑制に努めるべきである。そうすれば全体的なコンピューティングの予算も下がるはずだ。
クラウドプロバイダーやデータセンターのエネルギー源を評価する
環境に優しい電力源を使用でき、低炭素に配慮している地域にモデルを配備することで、AI(およびソフトウェア全般)の炭素強度を最小限に抑えることができる。この慣行によって、運用時の排出量が75%減ることが示されている。
たとえば、米国で訓練され稼働しているモデルは化石燃料由来のエネルギーを使うかもしれないが、水力発電を主要エネルギー源とするカナダのケベック州で同じモデルを稼働させることもできる。グーグルは最近、7億3500万ドルを投じてケベック州にクリーンエネルギーによるデータセンターの建設を開始し、2030年までに「24/7カーボンフリー電力」(24時間365日炭素を排出しない電力)に切り換える計画を立てている。
同社はまた、企業のクラウドのワークロードに伴うエネルギー消費の削減を支援するために、カーボン・センス・スイート(Carbon Sense Suite)を提供している。クラウドプロバイダーのユーザーはこのツールを通じて、カーボンニュートラルまたはゼロカーボンのエネルギー源を導入した時期と方法に関するクラウド企業からの報告を監視することができる。
モデルとリソースを再利用する
ほかの資源と同じように、テクノロジーも再利用できる。新しいモデルを訓練する代わりに、オープンソースのものを使えばよい。AIの利用により排出される炭素の影響を、リサイクルによって減らすことも可能だ。最近のノートPC、プロセッサー、ハードドライブやその他多くの製品から、原材料を取り出して次世代の製品に使うことができる。
炭素モニタリングにAIの活動を含める
AIの研究所とベンダー、およびAIを使う企業はすべて、自社のカーボンフットプリントを把握するために炭素モニタリングの慣行を取り入れる必要がある。さらに、顧客がAI関連の取引に関して賢明な判断を下せるよう、自社のフットプリントの数値を公表すべきだ。
温室効果ガスの算出は、データサプライヤー、データ処理を行う組織(研究所など)、およびAIベースのサービスプロバイダー(オープンAIなど)のデータセットに依存する。アイデアの構想から、研究結果を得るために使われるインフラに至るまですべてにおいて、環境に優しいAIのアプローチを取る必要がある。
コードに組み込んで実行時の排出量を見積もることができる、複数のパッケージやオンラインツールがある。コードカーボン(CodeCarbon)、グリーンアルゴリズム(Green algorithms)、ML CO2 Impactなどだ。ベンチマークの確立とMLモデルの評価に向けて、こうしたパフォーマンス指標を考慮するよう、開発者コミュニティに働きかけることが必要だ。
当然ながら、組織と個人による生成AIモデルの使用において考慮すべきことは、倫理や法から哲学や心理学に関わる事項まで多くある。生態系への懸念も、ここに加えるべきだ。これらのテクノロジーが人類の将来に及ぼす長期的な影響について議論することはできても、地球が人間の住める場所でなくなれば、その検討は無意味になる。
"How to Make Generative AI Greener," HBR.org, July 20, 2023.