競合企業にDXで先行するための最大のカギ
Illustration by Niyi Adeogun
サマリー:多くの企業が、DX(デジタル・トランスフォーメーション)とAI(人工知能)の活用を進めている。しかし、期待される収益向上やコスト削減は実現できていないケースが少なくない。本稿では、図表2点を用いながら、DX... もっと見るに関して先行している銀行と、消極的な銀行の違いを明らかにし、DXによって競争優位性を構築するための具体的な戦略を論じる。 閉じる

DXを通じて競争に勝つために何をすべきか

「金(=結果)を見せろ」。映画『ザ・エージェント』の中で、キューバ・グッディング・Jr.演じるロッド・ティドウェルは、このせりふを文化的な試金石にした。彼は、トム・クルーズ演じるスポーツエージェントを信用することへの不安を表していただけでなく、クルーズの覚悟も疑っていたのだ。

 デジタルおよびAIを活用した企業変革に関して、ビジネスリーダー、株主、取締役会のメンバーは、言葉は違えど、同じことを口にするようになってきている。世界の大企業の89%がデジタル・トランスフォーメーション(DX)やAI(人工知能)トランスフォーメーションを進めているが、その取り組みは、期待される収益向上の31%、期待されるコスト削減の25%しか実現できていない。

 この数字は、厳しい疑問を投げかけている。「苦労してデジタル化する価値はあるのだろうか」「業界をリードする必要が本当にあるのか、ファストフォロワー戦略のほうが賢明ではないのか」「デジタルやAIの活用能力は、長期的な競争優位をもたらすのか、それとも現代ビジネスの必要経費にすぎないのか」

 その価値に対する確信と、それを手に入れる方法に確信が持てない限り、ビジネスリーダーが難しく泥臭い改革を実行して成功を収める可能性は低い。筆者らが著書Rewired: How to Outcompete in the Age of Digital and AI(未訳)で論じている通りである。しかし、筆者らは独自のデータを用いて、DXがどこでどのように価値を生み出しているのか、そして競争に勝つために企業は何をすればよいのかを突き止めた。

確かな証拠、真の価値

 DXやAIの活用を、オペレーショナルKPI(重要業績評価指標)や財務パフォーマンスの改善に直接結びつける確かな証拠は乏しい。