企業のレジリエンスを高めるための投資をいかに評価するか
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サマリー:近年、異常気象やインフラの機能不全などといった物理的なインシデントが急増し、企業はこの対応に追われている。物理的な脅威は連鎖反応によりすべての部署に影響を及ぼすため、脅威に対処するレジリエンスへの投資... もっと見るが必要だ。本稿では、その投資効果を測定するための指標として、従来の投資収益率(ROI)から派生させた「レジリエンス投資収益率」(RORI)の重要性を説く。 閉じる

レジリエンスへの投資を評価する指標「RORI」

 サイバーセキュリティ関連の危難が生じかねない状況や出来事を指す「インシデント」は、すでに大半のビジネスリーダーにとって重大な関心事になっている。しかしそれだけでなく、企業は物理的なインシデントの急増にも直面している。この種のインシデントも、働き手と事業活動に極めて大きな影響を及ぼす。リスク、セキュリティ、事業活動継続の分野で活動するリーダーたちはよく知っているように、異常気象やインフラの機能不全など、物理的な脅威は、ますます頻繁に現実化するようになっており、しかもそれらの問題はいっそう相互の関連を強めている。

 筆者がCEOを務めているオンソルブが最近行った調査によると、企業の最高幹部レベルのリーダーたちは、物理的なインシデントのリスクに気づき始めているが、18%のCEOは、物理的なセキュリティ対策を担当する最高幹部ポストを設けていないと答えている。物理的な脅威はしばしば連鎖反応を引き起こし、事業活動のあらゆる側面に波及していく。したがって、その種の脅威に対処することは、個々の部署や部門のレベルでは難しく、ミドルマネジャーに委ねておいてよいものではない。この問題は、組織のレジリエンスに関わる非常に重要な要素であり、リーダーがこの種のリスクについて認識し、評価すべきだ。

 しかし、単純な投資収益率(ROI)の指標は、物理的なリスクの予防と緩和のために行う投資の有効性を測るという目的には適さない。この種の投資の効果は、売上げの増加という形では評価できないからだ。物理的な脅威が増している世界で財務的に健全なビジネス戦略を打ち立てようと思えば、言わば「レジリエンス投資収益率」(RORI)に着目する必要がある。これは、獲得した売上げではなく、回避された損害を金銭評価する指標である。

レジリエンスを持つことの定量的な恩恵

 2022年、異常気象による災害の件数は前年に比べて、米国で42%、世界全体で72%増加した。同じ期間に、インフラとテクノロジーの機能不全(停電など)の件数は、米国で807%、世界全体で688%増加。輸送や交通手段(航空、海運、鉄道、道路)の事故は、米国で296%、世界全体で211%増加している。

 今日の組織にとってレジリエンス、すなわち有害な出来事を予測し、その影響を吸収し、そこから立ち直る能力を育むことは、必須課題になっている。最高幹部たちがレジリエンスの確保を優先課題と位置づけている企業は、そうでない企業に比べて、物理的な脅威から立ち直り、自社の時間とリソースと売上げを守り、市場での競争力を強化しやすいのだ。

 しかし、歴史的に見て、企業の最高幹部たちは、財務に直接的な影響を及ぼすようなリスクに優先的に対応する傾向がある。目に見える財務面のリターンが期待できる投資を好むのだ。その点、RORIは、物理的なインシデントの3つの主たる側面に関して、レジリエンスを確保することにより期待できる「リターン」を数値で示し、可視化することができる。

直接的なインパクト

 物理的なインシデントは、企業の事業活動と利益に対して、目に見える直接的なインパクトを及ぼす可能性がある。たとえば、年間売上高1000万ドルのA社の施設で火災が起きた場合、5日間の休業を余儀なくされて、およそ25万ドルの損失が生じるかもしれない。あるいは、フォーチュン100のリストに名を連ねるB社の流通センターが深刻な竜巻で破壊されれば、損失は8000万ドルを超えるかもしれない。

間接的なインパクト

 企業が危機対応を誤って評判にダメージが生じれば、顧客ばかりでなく、人材も失う可能性が高い。リンクトインの調査によれば、従業員数1万人の企業の評判が悪化した場合に生じる損害は、人件費の増加という形で760万ドルに達する可能性があるという。今日のように、ブランドの評判が極めて大きな意味を持つ時代には、一つのネガティブなインシデントが起きただけでも企業が倒れかねないのだ。