競争力へのインパクト
前もって準備しておくことにより、企業は物理的なインシデントの影響を競合他社より大幅に縮小できる。それができれば、企業にとって、金銭面でも数値評価可能な恩恵が生まれる。
ある物理的なインシデントが1社だけでなく、同業の企業すべてに影響を及ぼすとしよう。たとえば、インフラの機能不全により、A社が24時間の事業停止に追い込まれたが、同業のライバルであるB社は有効な準備をしていたために、事業停止を完全に免れたとする。その場合、A社の顧客は、すぐに利用できる別の取引先を探し、B社を見つける可能性が高い。この種のB社にとってのリターンは、過去のインシデントによって同業の企業にどのような影響が及んだかを調べることにより金銭評価できる。
RORIは、企業のタイプ、規模、売上高、業種によって大きく変わってくる可能性がある。その数値は、1年間にレジリエンスの強化のために行った投資の金額から、物理的なインシデントによる直接的なインパクトで失われる売上高の年平均(ALR:average lost revenue)を差し引くことで算出できる。ALRは、1日当たりの事業活動による売上高の平均に、1年の間にインシデントの影響で生じる休業日数を掛け合わせることで算出する。
RORIの値には、社会的・感情的な要素などの定性的なインパクトや、一部の定量的なインパクト(従業員の退職率や顧客の解約率など)は反映されない。それでも、この指標を用いることにより、レジリエンスを向上させるために投資することで守れる売上高を数値で把握できる。
RORIと戦略をすり合わせる
今日、さまざまな脅威が自社の利益にどのようなインパクトを及ぼすか、そして会社としてどのようにリスクの緩和策を準備すべきかを理解することは、企業の取締役会レベルで取り組むべき重要課題になっている。企業の取締役会の99%は、自社の経営幹部たちに対して、物理的な脅威に対処するためのプランを用意するよう求めているという。
RORIを全社で一貫して用いれば、最高幹部たちはそれを活用することにより、物理的なインシデントによる打撃を緩和するための戦略を打ち出し、究極的には、景気が悪い時でも想定外の危機に見舞われた際にレジリエンスを発揮できる体制を築けるかもしれない。以下では、レジリエンスを向上させるための投資と、自社のビジネス上の目的をすり合わせる方法を紹介する。
RORIの追求が全社の優先課題と合致していることを周知する
企業幹部は常に、売上げと利益に影響を及ぼす要因を分析している。その要因の中には、財務面の要因も評判面の要因も含まれる。その点、レジリエンスへの投資は、利益を直接生むことはないかもしれないが、売上げを生むために不可欠な働き手と場、資産を脅かす要因を減らす効果がある。
RORIの分析と検討の仕方を全社で統一する
物理的なインシデントのリスクは、事業活動のあらゆる領域に影響を及ぼす可能性がある。そこで、社内のあらゆる部署やチームがレジリエンス投資の恩恵について理解することが必要になる。RORIは、多くの人にとって目新しい概念かもしれないが、リスクマネジメントのためのソリューションや、戦略への投資の正当性を訴えるに当たっては、RORIの重要性を理解させることが極めて重要だ。
RORIをすべての部署に導入する
ROIについて尋ねられた時は、レジリエンスの重要性とリターンに話題を転換しよう。セキュリティ対策を行うことにより、一人の命が救われたケースもあったかもしれないし、潜在的な脅威を予期することにより、インシデントを回避して200万ドルの損失を回避できたケースもあったかもしれない。こうした具体的な数字は、さらに数字で評価しにくい恩恵──ブランドの評判の向上や、従業員の退職率や顧客の解約率の低下など──とともに、危機管理に投資することの全体的な価値を示すために全社で用いることができる。
リスクに対する考え方を変えるべき時
物理的なリスクが事業活動のさまざまな領域に、さらには売上げにも波及することを考えると、物理的なリスクのマネジメントは、最高幹部レベルで取り組む必要のある優先課題の一つと考えたほうがよい。企業のCEOは、目に見える財務面のリターンを期待できる領域に投資すべきであることに変わりはないが、ROIに対する考え方を変えることも必要だ。RORIを意識すれば、事前の準備を行うことの効用が見えてくるだろう。
"Investing in Your Company's Physical Resilience," HBR.org, August 23, 2023.